「…………ったくアイツ何処行ったんだよ」
東条が言うには古市は教室に戻ると言っていたらしいが、行ってみたもののいなかった。
他の奴等にも古市見てねぇか聞いたが知らねぇって言うし………あいつマジで何処行きやがった。
教室に居たくねぇ理由でもあんのか?
つかそんなに俺に会いたくねーのか。
「………………クソッ」
足に転がる石を蹴飛ばしてまた走りだすがいくら走っても古市はいない。
ただでさえ広い聖石矢魔だ。 校舎の中をいくら走っても行き違いという可能性のほうが高い。
携帯で呼ぼうにもさっきからずっと電源が切れていて出ない。
いつもは電源を入れているから、敢えて今切っているのだということが分かる。
そこまでして会いたくないのかと奥歯を噛み締めた。
「どこにいやがんだ」
二階の窓から空を見上げてなんとなく、中学のときのことを思い出した。
そう、あれは男鹿が売られる喧嘩を片っ端から勝いまくって、全員返り討ちにする日々を送っていた時。
男鹿の喧嘩に巻き込まれ続けていた古市が、ある日男鹿が上級生といざ喧嘩をするぞ、というときに男鹿の腕を引っ張って立ち去ったのだ。
止める上級生の言葉も無視して男鹿の腕を引っ張る古市は一生懸命で、どこか逆らえなかったのを覚えている。
人気の少ない校舎裏のゴミ捨て場まで連れていくと男鹿を石段に座らせた。
『何すんだ古市』
『何じゃねーよ、お前最近喧嘩しすぎ。ここなら誰も来ないから暫くこっち来ようぜ』
『は?校舎裏のゴミ捨て場とか一番来そうじゃねぇか』
『馬鹿か。すぐそこ職員室だぞ?騒ぎゃ、すぐ先生来るから意外と不良来ねんだよ』
『おぉ。さすが古市君』
『それに…………俺ここ結構好き』
『お前がゴミだからか』
『ちげーよ。つかゴミはお前だ』
そう言って古市はいつもみたいなアホ面を止めて妙に静かな表情になったかと思ったら、綺麗に笑った。
そのときちょうど風も吹いてて古市の銀髪が綺麗になびいてて目を奪われた。
『ここ、傷心したときとかに来たら何かしんねーけど………落ち着けるんだよ。俺の心のスポット的な?』
『……………ゴミ捨て場が?』
『ちげーよ!こう、太陽に当たらずにひんやりしたこの空間が好きなの!!!』
『つまり古市はジメジメしてるっつーことか』
『だーかーらーっ…………』
「……………」
足は階段を降りて校舎裏に自然と向かった。
古市はきっとそこに居ると、直感がそう伝えるから信じてみようではないか。
古市に対してだけ働く自分の直感を。
走るのは止めてゆっくりと進む足取りが、まるでカウントダウンのように感じられて妙な緊張が走る。
あと少し、この角を曲がったらきっと石段に佇む古市がいる。
曲がると同時に授業始まりのチャイムが空間に響いた。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
「やっと、見つけた」
「………………」
石段の上に座る古市は膝に顔を埋めていて表情はよく分からない。
寝ているわけではないのに返事をしないというのはやはり男鹿を避けていたという証拠だ。
口を開かない物静かな古市に怒ることも、無理矢理口を開かせようともしない。
ただ、古市を見つめた。
サラサラと流れる銀髪は空気に溶け込んでいってしまいそうなくらい儚くて、それと同じくらい古市も儚いのだと感じる。
「隣、座るぞ」
「…………………」
近くに、触れることの出来る距離にいるのに触ることは躊躇えた。
いや、古市が俺に触って欲しくないと言っているような気がして出来ないんだ。
今、そうしてしまえば古市に拒否されてしまう気がして手を伸ばせない。
「古市、顔見たい」
「………………………」
フルフルと横に振られる首に脱力しながら、再度聞いた。
「俺の顔見たくねぇ?」
「…………………」
「………………………」
「………………………」
返事はやはり無い。 古市の考えていることが分からない事実がもどかしくてしょうがない。
自分が頭悪いのは自覚しているが、勉強は分からなくとも古市のことだけは分かったのに今はそれも分からなくなった。
お互いのことは本人よりも分かっているような気がしていたのは、気がしていたに過ぎなかったのか。
何も分からなくなってきた。
古市は何を考えている?
「………………俺は……」
「……………」
「俺は男鹿が分かんねぇ」
「!」
「………分かんねぇよ」
「……俺だってお前が分かんねぇよ」
言葉が足りないから、分からない。
「……俺帰るわ」
「は?」
急に立ち上がった古市を呆然と少しの間見つめるが、すぐに自分も立ち上がって古市の腕を掴んだ。
今捕まえなければこれから先も捕まらないような、そんな気がした。
古市は腕を掴まれて歩くのを止めたが振り向こうとはしない、つまり言いたいことがあるならこのまま話せということだろう。
男鹿は古市に何か言葉をかけようとしたが口は上下に開閉するだけで音が出ない。
何を言えばいいのか分からない。
今古市に言うべきことは何なのかがさっぱり分からない。
「用がないなら離せよ」
「………………」
古市の腕が手のひらから抜けていくのを黙って見つめる。
「と、…………」
「?」
「東条のとこかよ」
「何が」
「東条のとこに帰んの」
「………帰るっつってんだから家に決まってんだろ」
「…………お前、東条が好きなわけ」
「だから何でそうなんだよ」
俺だってなんで自分がこんなことを聞いているのか意味不明だ。
「好きか聞いてんだろ」
「…………お前に関係ねーだろが」
関係ない? 古市は俺に誤解されたままでいいってわけか。
そこは嘘でも嫌いとか、そこまではいかなくても好きじゃないって言えよ。
そう言わないってことは『好き』なんじゃねぇの?
色々足りない脳みそをどれだけフル活用しても出てくる答えは変わらないし、その答えを必死に否定しても結局振り出しに戻る。
「俺がいねぇ間に東条と何してんだ」
「…………なんでお前にそんなこと言われなきゃいけねんだよ」
「あ?なんでって…………」
「俺達は友達だろ………?口出しする必要ねーじゃん」
確かに俺達は親友だ。 だけどそれだけ。
『コイビト』じゃない俺達はお互いのことに口出しをする権利はない。
だけど………『俺』だから聞く権利があんだろ………!?
「テメェは俺と東条、どっちのがいいんだ………!」
「はぁ?別にそんな話してねーだろ!」
「いいから言え!」
「…………………っ」
言葉に詰まった。
どっちだって俺には大切な存在だ。
確かに男鹿からしたらはっきりして欲しいかもしれないけど、そんな風に聞かれたくない。
そんな怒ってる、みたいな……
そりゃあ怒ってくれてるってことは俺を好きな証拠だと思ってるけど………いや、思ってたけど。
邦枝先輩と男鹿のことを考えたら、男鹿は俺を取られたくないとかそういう子供染みた独占欲で縛っていたいだけなのかもしれない。
そう考えたら何で俺が悪いみたいに言われてんだろう。
「……言えねぇってことは俺より東条のが良いってことかよ!」
「!」
「あんな抱き合うくらいだからな!お前も東条に満更じゃねんだろ!?」
「見てた、のか………!」
男鹿の鋭い視線が突き刺さる。
姫川のマンションの屋上で再会したときのような目ではなく、怒りを含めた黒い瞳。
何で俺だけが責められてんだろう。
原因はお前なのに。
どうして
俺は男鹿が好きなんだろう。
考えても分からない。
そんな自分にイライラして、俺だってお前のせいで傷ついてるのに、何でお前だけが傷ついてるみたいに怒ってんの?
古市はここにきて初めて男鹿の方へ振り返り、顔を合わせて一気に距離を詰めて拳を奮った。
「ガッ……………!?」
古市の拳は男鹿の顔面に入り、それを予想打にしていなかった男鹿は後ろに後ずさった。
男鹿が呆然としていたのは一瞬で、直ぐに何しやがると古市を睨むが、驚きに目を見張る。
男鹿を殴った古市は怒りを表情に映しているのかと思っていたのに。
映し出されたのは罪悪感と、悲哀。
古市のこんな顔を見たのは初めてだ。
そんな泣きそうな口から絞り出されるように言われた。
「俺は東条さんが好きだ………っ」
「なっ…………」
頭が真っ白になる。
続けられる古市の言葉は耳に入ってこない。
ただ目を見開いて信じられない、信じたくない事実を聞かされて頭の中がグチャグチャに混ぜられてるようなそんな痛みに襲われる。
「東条さんは………優しい……、それにちゃんと言ってくれる!………ちゃんと言葉にしてくれる」
「……………古市」
ただ、気がついたら体が勝手に動いていて…………
古市の匂いを近くで感じたと同時に、古市を抱き締めていることを知った。
古市の体は抱き締めていると分かるが本当に華奢で、少し力を入れると壊れてしまいそうだ。
「なん…………」
なんでこんなことすんだよ。
もう嫌だ。
お前に振り回されたくない。
男鹿の胸板を押しても離れる気配が見られない。
離したくないとでも言うように身体に回る腕が力を込める。
普段の男鹿からは想像出来ないような、消えそうな声が耳元に落ちる。
「古市…………東条が好きとか、そんなこと言うな」
「……………」
「古市………」
そんな、俺が好き、みたいな声で呼ぶなよ。
泣きたくなるだろ…………?
…………もしかしたら確認してみるべきなのかもしれない。
俺が勘違いしているのか、それとも…………なのか。
何にしろ男鹿から直接聞かなければ何も変わらない。
「古市?」
「一つ聞くけど…………お前、さ………邦枝先輩と何かあった………?」
邦枝? 今なんであいつが出てくんだ?
何かあったかって言われてもな……………
いや、俺修行中にあいつに平手打ちされたからあったっつったらあることになんのか?
男鹿は元来正直な生き物だ。
だから正直に言った。
「あった………かも?」
「…………やっぱり、な」
古市の声が急に低くなり、暴れだした。
「………離せっ!!」
「何怒ってんだよ!」
「うっせぇ!!!嫌だっつってんのが聞こえねぇのか!」
「!!」
嫌だと言われた瞬間古市を閉じ込める腕だけでなく、全身から力が抜け、古市が俺を突き飛ばした。
「最低だ!!人のことばっか言いやがって!お前だって邦枝先輩と…………!!もうお前なんか知らねぇ!!」
「ちょ、待っ」
走っていく古市を追いかけることも出来ずにただその場に座り込んだ。
大人しく収まっていてくれたのに一体……………何がいけなかったんだよ。
しかも今あいつ、涙ぐんでた。
俺のせいで…………だよな。………分かんねぇよ古市。
なんでこうなったのか全然分かんねぇ。
でも……………また傷つけた。
「ごめん…………古市
でも 好きだ」
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あとちょっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
古市が男鹿ちゃんを殴るところが書きたかったんだ!!!
あと2,3話で終了です!!!
年内にクリア出来そうでいやあふうううううううう
テンション高くてごめんなさい
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