「…………………」

さっきまで俺は古市と教室で話していた筈だ。なのになんでこんな廃工に俺はいるんだ。
訳がわからない、と頭を悩ますが今の事態を説明出来るものが一つだけ思い付いた。
そう、おそらく悪魔の仕業。また訳の分からんことをしてくれやがって……
頭をガシガシと掻きながらため息をついた。

「おにーさん、何してるんですか?」
「あ?…………!!」

声を掛けられ振り返ると自分の肩よりも低い位置での銀髪が揺れる。
男鹿は目を大きく見開き、少年を凝視した。

「!、おにーさん、男鹿の従兄かなんかですか?そっくりですけど」
「お前……古市、か?」
「はぁ……古市ですけど」
「なんか縮んでね?」
「?何のことか分かりませんけど……」
「????」

古市は縮んだわけではないらしく、俺を『男鹿辰巳』の知り合いだと思っているらしい。
じゃあ俺はなんなんだ?ここはどこだ?ヒルダの奴何しやがったんだ?
よく解ってない男鹿を他所に古市は廃工の椅子に腰掛ける。

「一応おにーさんは男鹿の知り合いってことでいいんですか?」
「あー、まぁそう……だな」

間違ってはいない筈だ。
古市は男鹿の顔を見つめ、意味深に溜め息を吐いた。

「人の顔見て溜め息吐くたぁ、いい度胸じゃねーか」
「えっ、いやいや違うんスよ。おにーさんが本当に男鹿そっくりだから………」

少し寂しそうに笑う古市にそういえば『此方の世界』の男鹿はどうしたのかと疑問に思う。
前髪も切ってないし、この背丈的にもおそらく中学一年くらいだろう。
ん??中学一年くらい???これ、もしかしてタイムスリップ的なアレじゃねーよな?
流石にそんなん出来ねーだろ。いやいやでも、これは…………

「古市、お前男鹿は何処いんだ?」
「…………知らない」
「もしかして喧嘩でもしてやがんのか」
「…………………」

古市と俺はいつもどんな時でも一緒に居た。
でも中一の最初の頃、喧嘩して3日くらいだったか古市に口を聞いてもらえなかった苦い記憶がある。
もしこれがその時の喧嘩なら本当に過去に来てしまったことになる。
ただ、その時の喧嘩の原因も仲直りの方法も今となってはもう覚えていないが。

「何で喧嘩したんだよ」
「…………男鹿が悪い」

あ、なんか今イラッと来たわ。
過去の自分に対してであっても一方的に悪いと言われて気分が良いものではない。
古市はそんなこと知りもしないため文句を言うわけにもいかないのだが。

「アイツ、俺に『俺とばっかいなくても他の奴のとこにもいけばいーじゃん』って言ったんですよ。有り得なくないっスか?」
「………は?」

男鹿は怪訝な顔を向ける。
古市が3日も完璧無視を決め込んでいて、一体どんな大それた理由なのかと身構えていた。
正直、古市の怒り所が分からない。何処に怒るべき要因があるのか。

「もう6年もずっと一緒に居るのに今更そんなん言われても困るじゃん。他の奴と遊んでたら散々邪魔してきやがったくせに!」
「古市は邪魔してきたのに、今更他の奴のとこ行ってもいいって言われたから怒ってんのか?」
「…………違う」
「じゃ、何処に怒ってんだ」

一度目を伏せ、顔を上げて男鹿を見詰める。言うかどうか迷っているようだ。
男鹿も少しずつだがうっすらと思い出して来ていた。
古市から返ってくる反応が知りたくて聞いた結果、よく分からないままキレられたというあまり宜しくない記憶。
理由が知りたい。あの時どうしてあんな風に怒ったのか。


「男鹿に……絶対言わない?」
「おう」

今聞くから言う必要ねーし。


「6年も一緒に居て、他の奴よりもずっと男鹿のこと優先してきた。なのにアイツは他の奴のとこ行っても良いって言った」
「おう」
「アイツなりに中学にも上がって、俺に気ぃ遣って喧嘩に巻き込まれない道を選べる機会くれたんだと思う」


俺を傷付けたくなくて。
男鹿の優しさだって、そんなの分かってる。
けど、


「じゃあ今までの俺は無理して男鹿の傍に居たと思ってんのか、って」
「……………」

「好きじゃなきゃ6年も一緒に居るわけないだろって」


恥ずかしそうに若干紅くなりながら目を泳がせる古市も可愛いと思う。
今ならショタコンの気持ちが分かる気がする。
古市が可愛い。俺を好きだと宣言する古市が可愛い。

「そいつも不安だったってことだろ」

古市が好きで、でも嫌々居られるのは嫌だったから。

「俺は男鹿のこと誰よりも大事だし、一番一緒に居て楽しい。女の子達と遊ぶより、男鹿と一緒に居る方が好きだ」

そんなの当たり前のことで。


「俺がどんだけ男鹿のこと好きか、通じて無かったのがムカついた」


「………………」

それは初めて古市の口から直接聞いた言葉。
今までお互いのことを言う時はムカつくようなことしか言わなかった口から、『好き』だと言われた。
今まで巻き添えにさせる度、何度古市が俺から離れていかないかと不安になったか分からない。
喧嘩に勝った後、本当はいつもハラハラしてる、そんな俺に古市はいつも笑って言うんだ。

『早く帰ってゲームしようぜ』

友達としてのその言葉にいつも救われてた。
そんな古市が俺は大好きで。そんで古市が俺から離れて行かないのは俺が好きだからで。
もしかしたら人生で一番今幸せかもしれない、とか。


「古市は『男鹿』が好きなんだろ?」
「……………うん」
「多分お前が何で怒ってんのかも分かってねーと思うぞ」
「……そんなの分かってます」

男鹿の鈍さは今に始まったことじゃない。
だけど根本では理解してくれているから、野生の感でも俺のこと解ってくれてるから、好きなんだ。


「男鹿のことは俺が一番よく分かってるから、もうそれでいいんです。今回のは勝手に俺が拗ねただけだから」
「もう怒ってねーのか」
「うん。男鹿と似てるからか分かんないスけど、何となく本人に言ってるみたいでスッキリしたんで」


無邪気に笑う古市は本当に可愛くて堪らなくなる。
今よりも幼い頬を撫で、小さな体を抱き締めた。

「おにーさん?」
「すまん、つい」
「ついって…………ショタコン?」
「は?」

確かに古市限定なら連れ去りたくもなるが、他のガキには興味ない。
でもこれショタコンになんのか??
何を考えていると思ったのか、古市は楽しそうに笑った。

「大丈夫、冗談ですよ?」
「………そーか」
「おにーさんは普通にカッコイイ」
「?」


カッコイイ?



「男鹿も格好良いけど、その10倍は格好良いと思いますよ」


この古市はどんだけ俺を喜ばせりゃ気が済むんだ。格好良いなんて今まで言われたことねーよ。
お前どんだけ俺のこと好きなんだっつの。
男鹿は立ち上がり、古市の前に立ったため見上げる形になった。


「古市」
「…………おにーさん?」


男鹿が腰を少し曲げて屈んだため、体に差していた影が濃くなる。
大きな瞳で見詰めてくる古市に胸が熱くなり、さらに腰を折ると二人の距離が無くなった。


「………え、」

額に温かい感触がしたと認識した、その瞬間。
彼の姿は目の前から消え、自分のよく知った男鹿が突然現れた。


「よう。ふ、ふるい「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「うるせえええええええええええええ!!!!!!!!!」

「な、なななっ!なななんで!!」

古市の頭の中がパニック状態になるのも当然だろう。
さっきまで口をきいていた人間が急に消え、喧嘩中の相手が現れたのだから。
しかも近距離で現れたせいか、古市を背もたれに押し付けるような体勢になってしまっている。
顔も鼻と鼻が触れあうような距離なのだ。

「ど、どけろ!!近い!!」
「おわっ、押さなくてもいいだろが!」
「うっせぇ!つかどーいうことだよ!さっきまでいた人はっ」

何だよ!!

その問い掛けに男鹿はよく分からないというように首を傾げた。
男鹿からすればさっきまで古市の傍にいた人のことなんか知らないため分からない。

「俺はなんかデケー古市と会ったぞ」
「は?なんだソレ」
「デケー古市がなんか未来と過去が入れ替わってる、みたいなこと言ってたぞ」
「未来?え?は?」
「俺と未来の俺が入れ替わってたらしい」


未来の男鹿と入れ替わってた??
てことはさっきまで一緒にいた男鹿に瓜二つなおにーさんって…………!
まさか……!?
確かに男鹿そっくりだったけど、学ランが短ランになってたけど!!
だって俺多分さっき、おでこに…………


「わあああああああああああああ!!!!!!!」
「うるせええええええええええええええ!!!!!!!」


さっきのことを思い出して真っ赤になる古市を不審がり近付く。


「大丈夫か?お前顔すっげぇ赤ぇそ」
「だ、大丈夫だから、近付くなって!」
「なんだ?まだ怒ってんのか?」

男鹿が少しだけ、古市にしか分からないくらいほんの少し拗ねてみせると、やはり見逃さなかった。
その表情に申し訳なくなって男鹿に背を向けた。

「………もういい」
「?」
「もう怒ってねーって言ってんの!」
「ほんとか?」
「何回も言わすなバカ。ほら、帰るぞ!お前探してこんな廃工にまで来てやったんだ、感謝しろ」

拗ねたような顔をする古市はもう本当に怒ってないようだったため、男鹿は廃工の外に出ていった古市を追い掛ける。
そして未来の古市に言われた言葉がちゃんと聴こえるように、ありったけの気持ちを声に乗せて発した。



「俺は古市のこと好きだからな!」



ずっと、これからも、ずっと。

お前だけが俺の味方だから。

俺も一生、お前の味方だ。



古市は直ぐ後ろに来た男鹿の存在を感じながら、



「……………知ってる」


男鹿に聴こえるように小さく呟いた。


そう言った古市の銀髪から覗く耳も首も、紅く染まっていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

男鹿ズは例え年が離れてても古市が相手なら手出しちゃうんです。
本能的に我慢出来ないんです。
ちなみに中学一年のときに古市が言ってる好きは友情でも恋慕でもどっちでもとって頂いて大丈夫です。
楽しかった……………
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