部活が終わったのは夜の7時だった。
それから恒例の灰崎説教タイムが終わると8時になっていた。
「………………………すき、なんだよ」
らしくない小さな声で告げられた言葉に胸が熱くなって、でもその意味がよく分からなくて狼狽えた。
俯いた後輩の風に揺れる髪を見つめたまま言葉が出てこない。
頭の中がうまく整理されないまま体は勝手に手を伸ばし、灰崎の頭を撫でていた。
「……………っ」
「……………」
ビクリと震えた灰崎は目を一瞬見開くと泣きそうに瞳を揺らして口を引き結んだ。
その表情に、見ている虹村の方も切なくなる。しかし何を言えばいいのか分からない。
灰崎のことは嫌いじゃないし、クソ生意気な所もまぁ可愛いんじゃないかと思う。
でもまさか告白されるとは思ってなかった。
無言でひたすら頭を撫で続ける虹村をどう捉えたのか、灰崎は急に顔を上げると睨み付けた。
「アンタ、俺のこと好きじゃねぇならはっきり好きじゃねぇって言えよ」
「………」
虹村の手を振り払うと涙声で告げる。
「こんな、慰められるくらいなら……いつもみたいに殴られた方がマシだっつの」
今にも泣き出しそうな灰崎があまりにも今まで見てきた姿と違いすぎて戸惑う。
そして純粋に慕ってくれる姿に今更じわじわと喜んでいる自分がいる。
あぁ、なんだよこれ。灰崎が可愛い。
「虹村……?」
「呼び捨てしてんじゃねぇよ、ボケ」
「痛っ!」
あ、しまった。
ついいつもの調子で殴ってしまった。
「……あ………?」
「……?……何スか」
痛みで睨み付けてくる灰崎はいつもと変わらずクソ生意気な顔なのに、何故か可愛く見える。
なんだ、これ……
無性に触れたくなり再度手を伸ばして今度は髪ではなく頬を撫でるように触ると、灰崎は分かりやすく動揺した。
顔を赤に染め、固まっている。
「に、虹村さ、ん……?は、はな、離し………なっ、」
可愛い。
そう思った瞬間体は勝手に動いていて、気が付けば抱き締めていた。
「う、あ……あ」
灰崎は突然の出来事にまともな言葉が出てこない。
そんな灰崎がさらに可愛く思えて虹村は笑った。
「お前、案外可愛いトコあんだな」
「はあ……!?何言って……」
「それに……」
抱き締めてみると案外細く、筋肉もまだ付ききってない。
………腰細ぇ……
腰回りを撫でるように触ると、灰崎はまるで会社で上司のセクハラを耐える社員のようにフルフルと震えている。
もしかしたら腰が弱いのかもしれない。
抵抗しない灰崎に対し加虐心が湧き、今度はさっきよりも粘着的に撫で上げた。
「ふ…………っ……虹村さ…ん」
「………お前……その顔はやめろよ」
虹村の服をギュッと握り締めながら耐える灰崎の顔はそれはもう言うまでもなく……
虹村は灰崎を今すぐにでもどうにかしてしまいそうになる衝動を抑え込み、腰から一度手を離すと抱き締め直した。
「………?」
「…………ちょっと、待て」
「なんだよ」
「いいから……このまま、な」
俺は正直灰崎となら付き合えるしうまくいく気がする。キスも抵抗ないと思うし、それ以上のことも想像できる。
けど相手はこの間まで小学生だった奴だぞ?確かに背はそこらのガキより高く体つきも良いし妙な色気もある。
あと三ヶ月もすれば進級だが、それでも中1に手を出す気はない。
「虹村さん………?」
「…………心臓、スゲー鳴ってんぞ」
「……ンなの当たり前だろ」
赤い顔が可愛い。そうか、そうだよな。
俺のこと好きなんだから、抱き締められて赤くなんのは当たり前だ。
中一つってもちゃんと恋してんだな。
「灰崎」
「…………」
「キスしていいか」
「…………は?」
身を引き、目を丸く見開いた灰崎の頭を撫でると虹村は額に唇を落とした。
あまりに想像外のことをされ、情けなくも身を震わせた。口先に虹村の指が触れる。
「次はココに、な?していいか」
「……………っ」
灰崎は咄嗟に首を横に振るった。
嫌な訳じゃない。むしろ嬉し過ぎて死にそうな位だ。
でも……もし、してみて虹村さんが気持ち悪いと思ってしまったら今までの関係が確実になくなってしまう。
告白した今、拒絶されてないのが奇跡なくらいなのに。
「別に気持ち悪ぃとか思わねーよ?」
「…………エスパーかよ」
「つか俺多分お前のこと好きだわ」
「………同情とかなら、やめろ」
余計辛い。アンタにそんなこと言わせたいんじゃない。
嘘でも『好き』なんて言われてキスなんかされたら、絶対後戻り出来なくなる。
アンタに溺れてしまう。
虹村は灰崎の勘繰りに深い溜め息をついた。
「言い方変えるわ」
「あ?」
灰崎の顎を掴むと顔を近付け、正面から言いきった。
「お前が好きだから、キスしたい」
何を言おうとしたのかは分からない。
ただ息を吐こうとしただけかもしれないが、それはどっちだったのか今はどうでもよかった。
灰崎が口を開きかけた瞬間、既に口は虹村に塞がれていた。
「っ……ん……んぅ」
「……は………ほら気持ち悪くねぇ………って、オイ!大丈夫か?」
「え………あ…」
鋭い目から溢れる涙に虹村もそうだが、灰崎自身驚いていた。
何故かは分からない。ただ、虹村の言葉に胸の中が温かくなった。
灰崎はよく分からない感情のまま虹村を見つめる。
きっとこの時、灰崎は自分が今している顔を自覚していなかった。
「お、前………」
「………?」
無自覚かよ!ヤベェ、くそ………可愛い。
普段からは絶対見ることの出来ない溶けた瞳に愛しさが込み上げる。
誰にも見せたくない、湧いてしまった独占欲は止められない。
「……………付き合うか」
「……は?」
「浮気したら殺すけどな」
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虹村さんに灰崎君が告白する話でした!
中一ってこの間まで小学生だった奴等じゃん(笑)とか思ったらこれくらいピュアでも許される気がした。
虹村さんも中二じゃん(笑)とか思ったら告白されて意識して普通に好きになっちゃうとかあると思う。
それで気がついたら自分の方が灰崎君に溺れてるっていうね!ギャップ萌えの罠だね!
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