タイミングは最悪だった。
部活が終わってからの帰り道、スマフォを弄ろうなんて考えずにそのまま帰れば良かったのに。
ポケットを漁らなければスマフォがないことに気付かなかっただろうに、と心底後悔している。
走って部室まで帰ると部屋には明かりが点いていたため、まだ誰か残っているのかと何の確認もせずに勢いよく開けてしまった。それがいけなかった。

「え」
「………は…」
「……………」

黄瀬の目の前に広がる光景はなんとも信じがたいもので、一瞬言葉を失った。
だってそうだろう。あの灰崎祥吾が、普段灰崎を躾と称して殴るばかりの主将虹村修造に押し倒されているのだから。
しかも灰崎の衣服ははだけており、虹村の手は下腹部の方に触れている。
これは明らかにそういうことだ。

「えーと……、俺忘れ物取りに来た……んスけど」
「………っ……」
「……あー…………」

声が出ないほどわなわな震えている灰崎に虹村はあちゃー、と片手で口を押さえている。
そして黄瀬は部室に踏み出した足を冷静に戻しドアをパタンと閉め、顔を真っ赤にして走り出した。

「お、おじゃましましたあああああ!!!!」

そう廊下で叫ぶ声を聞いて我に返ったのか、灰崎は自分の鞄とベルトを掴み虹村に吠えた。

「後で覚えとけよ!!そんで先帰っとけ!!」
「…………おう…」
「待てや黄瀬えええええええ!!!」

黄瀬と同じく叫びながら廊下を走っていく灰崎を見送り、虹村は乱れた服を直して鞄を片手に部室を出た。
タイミング悪ぃな、とか今度からは絶対部室じゃヤらせてくれねーだろうな、とかそんなことばかりが脳内を巡る。
溜め息を吐きながら仕方なく学校を後にした。
一方黄瀬はというと、灰崎に捕まり階段で息を切らしながら崩れ落ちていた。
二人して全力疾走したからかどちらも暫くゼェゼェと息を吐くばかりだった。

「……っは……てめぇ黄瀬……っ」
「な、んで……っ…追っかけて、くるんスか…はっ……」
「お前が……っ、逃げるからだろうが!」

そりゃあんな鬼の形相で追いかけてこられたら逃げたくもなるっスよ。
つか必死すぎてちょっと引くッス。
黄瀬の横に腰を下ろした灰崎の顔から吹き出る汗に、そんなに見られたくなかったのか、と少し同情した。
いい加減お互い息が整ってきた頃、黄瀬が切り出した。

「………にしてもほんと意外ッスね…」
「……………あ?」
「いや、だって………ねぇ?痛っ!!」

上目使いで見上げると思いきり殴られた。
完全な八つ当たりだ。

「言いてぇことがあんならはっきり言え………殴るぞ」
「もう殴ってるし………」

涙目になりながら殴られた箇所を擦り、もう一度灰崎に視線をやる。
こんな手が早くて喧嘩ばっかして問題起こしまくってる不良の逆らえない相手が主将だってことは知っていたが……まさかそうだとは思わないだろ。
あんな顔赤くして組み敷かれてるとこなんて今までの態度からは想像も出来ない。

「………まさかショーゴ君が下側だったとは」
「……また殴られてぇみてーだな?」
「えっ、ちょ、勘弁ッス!」
「……つーか……その……」
「?」

自分相手に珍しく言いどもる姿が新鮮で、クスッと笑った。

「大丈夫、誰にも言わないッスよ」
「べっ……別に頼んでねぇし」
「ま、相手が主将ってのはちょっと納得したけど」
「何がだよ」
「んー言われてみればっていうか、何となく?」

普段の異常な構い方(暴力)とか、わざわざゲーセンまで迎えに行ったりとか、あの熱の籠った目とか。
あれ?なんか結構あからさまじゃね?
けどそんな風に今まで考えたことがなかったのは灰崎の『不良』という強いイメージのせいだろう。
それに体格も良いため女役のイメージが全くないのだ。
あれ?女役?いやまぁ男同士なんだしそりゃあ女役はいるんだろうけど、女役って所謂夜の営みの……アレっスよね?
え、てことはショーゴ君って……

「あの……一個聞いてもいっスか」
「……んだよ」
「ショーゴ君てさ、その……もう主将とエロいこととかした?」
「は、はぁああ!!?んなもんお前に関係ねぇだろが!!ブッ殺すぞ!!!」

あ、シたんだ。そっかショーゴ君受けか。
何か生々しいッスね……まぁ付き合うってそういうことだし、当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
今の俺には大いに関係がある。だからこそ聞きたいことは山程ある。

「受ける側ってさ……その…痛くないんスか?」
「だから何でお前にんなこと言わねぇと………!!」
「だって俺もショーゴ君と同じっていうか……青峰っちと俺もそうっていうか……」
「は?」

灰崎は目を丸くして口を間抜けに開けたまま固まった。
情報を整理出来ていないのか、口をパクパクと開閉するばかりで全く声が出ていない。
黄瀬が青峰を慕っているのは知っていたが、ただの尊敬の部類だと思っていた。
というかむしろ……

「お前テツヤが好きだったんじゃねーのかよ……」
「それ皆に言われるんスけど、黒子っちのは悪魔で尊敬ッスよ」
「ふーん………そうか、ダイキか。アイツの何処が良いんだかさっぱりだけどな」
「はあ?青峰っちめちゃくちゃ格好良いじゃん。男らしいしバスケ上手いし」
「……まぁいんじゃね」

そんなん言うなら虹村さんのが格好良いだろ、とか絶対言わねーけど。

「で、俺と青峰っちまだシてないんスけど……受けって後ろ使うんでしょ?痛くない?」
「あー………」

答えづれーよ!!何でお前相手にそんな生々しい俺の性事情(ホモ)の話しねーといけねんだよ!!
しかも俺が女役の話とか何のプレイだ!!
かといって同じ受け同士、他人事とは思えない……つか最初の不安は痛い程分かるし……
悶々としている灰崎の肩を掴み、黄瀬は涙目で訴えた。

「ショーゴ君!男同士で付き合ってる人とか俺の周りいないから、相談出来るのショーゴ君しかいないんスよ!」
「……………~~~分かった」

黄瀬の顔の迫力と、手加減とか出来なさそうなダイキが相手なことに同情し、仕方なく受け入れた。
知識はそれなりにあるのかもしれないが、やはり実践するとなると勝手が違う。
リアルな話をちゃんとしてやった方が今後のためにもいい。

「で?痛いかどうかだっけか?………まぁ俺の場合は虹村さんがちゃんと解してくれたから痛いだけじゃなかったな」
「俺の場合はって……青峰っちが相手だったらどうなるんスか」
「ダイキは……絶対痛ぇな。つかアイツは慣らしてる最中に暴走しそうだな。我慢出来ねんじゃねーの?お前色気あるし顔は良いし?」
「そ、れはどうすればいいんスか………?」
「お前がダイキとヤる前に自分で慣らす練習をしとく、ぐらいだろ。ダイキが暴走しなけりゃいい話だけどよ」

俺と虹村さんはお互い感情が高ぶって何の心構えもせずにコトに及んだ。
そのせいで慣らすのに時間が掛かるわ、でも早く体を繋がらせたいわで気持ちに体が付いていかなかった。
虹村さんが丁寧に解してくれたから結果的に痛みも最小限で済んだけど。
ダイキには虹村さんと違ってそういう我慢する余裕がない。
いや、虹村さんも我慢しない時は本当に我慢しないけど。

「慣らすって………ローションとか使ってっスよね?」
「ああ、風呂とかで一回自分でしてみろよ。指の違和感に慣れるまではしとけ」
「ちなみにショーゴ君はいつも主将とヤる前に準備してんの?」
「ヤるって分かってたらするけど、いきなり盛られたらそんまま向こうに任せる」

黄瀬はそっか、といつの間にか出したメモ帳に書き留めていた。
お前それ誰かに見られたらどうすんだよ、と思いながらまぁいっかとほっとく。
確かにエロ本ばっか読んでるくせに経験値低そうだしな、ダイキは。
しかもゴムとか着けなさそうだし、絶対中出しするな。

「一応分かってるとは思うが……ダイキに中出しだけはさせるなよ」
「勿論そのつもりッスけど……」
「どんだけ頼まれてもさせんなよ?」
「う、うん」
「特に初めにだけはさせんな。最初にさせたら調子乗ってずっと中出しされんぞ。ただでさえお前ダイキ相手には流され易ぃんだからよ」

そんなに言う程中出しって辛いのか……体験者は語るってやつッスかね。
あれ?でもちゃんと後処理したら大丈夫なんじゃ……

「後処理すりゃあ確かに大丈夫だけどよ、俺が言いてぇのはダイキは後処理せずにそのまま寝こけるってことだ。そしたらお前が一人で虚しく掻き出さねぇといけなくなんぞ」

黄瀬が今まさに考えていたことに答えるように灰崎は話した。
青峰っちはそんな薄情な男じゃないッス!と言いたい所だが、自信を持って言えるかといえば………まぁアレだ。
他に聞きたいことは?とぶっきらぼうに言う灰崎は今までに比べて少し丸い感じがする。
意外にも真面目に相談に乗り、且つアドバイスまでしてくれた灰崎は、自分達が勝手に悪い部分しか見えていなかっただけで本当は優しい部分もあるんだろう。
多分、主将はそんな彼の柔らかい部分を全部知っている。

「ショーゴ君は……主将の何処が好きなんスか?」

唐突な質問に灰崎は思わず吹き出した。
ぶわっ、と顔を朱色に染めた灰崎の反応も今までからは想像出来ない程新鮮なモノだ。
こういうのがギャップ萌えと言うのかもしれない。

「で?どこ?別に誰にも言わないし」
「いっ言うわけねーだろ!」
「えー……じゃあ好きになったきっかけとかー、どっちから告白したとかでいいから教えてよ」
「お前はどこぞの女子か!」
「一個くらい答えてくれてもいいじゃん?俺も言うし」

さっきまで相談してた態度と打って変わっていきなり強気に灰崎に迫る黄瀬は楽しそうに笑っている。
絶対お前人の弱味握って楽しんでるだろと本人は思っているが、実際は灰崎の反応が何となく可愛く思えて黄瀬の加虐心がくすぐられているだけだ。
それに加えて対立ばかりしてきた相手とこんな風に会話していること自体が嬉しいという黄瀬の純粋な気持ちだった。

「ちなみに俺は自分で告白したッス。ま、成り行きでだけど」
「聞いてねーし…………はー……お前最悪だな」
「何が?」

お前が言ったら俺も言わないといけなくなんだろうが、と心の中で悪態をつきながら仕方なくポツリと溢した。

「……………俺からだっつの」
「え?」
「だから告白した方!!無理矢理言わされたんだっつの!」
「何でそんなキレてんスか……」

つーかショーゴ君、顔赤………あ、耳も赤い。なんかやっぱちょっと可愛いな。
無意識に手を伸ばし気が付けば目の前の灰色の頭を自分の手が撫でていた。
その有り得ない行動に灰崎はぎょっとするが、黄瀬は特に気にすることもなく笑った。

「主将がショーゴ君好きな理由分かる気がするッス」
「はあ?」

だって他の人が知らない顔を自分の前だけ出してくれるって凄い優越感があると思う。
でも俺もショーゴ君の意外と可愛い一面知っちゃったからなー……主将にシめられないように気を付けよ。
ま、いくらショーゴ君の新たな一面見たっつってもやっぱ青峰っちが一番なのは変わらないし。

「ショーゴ君」
「あ?つかいい加減手ぇ離せ、ぶん殴るぞ」

手を乱暴に弾かれたが黄瀬は特に気にした様子はなく、灰崎の目を見つめた。

「また相談とかしてもいッスか?俺もショーゴ君の相談とか乗るし」

そんなんお前が相談に来る率のが断然高ぇし、俺はお前に相談する程現状に困ってねーよ。
この時はそう思った灰崎も後々には黄瀬と自分の彼氏について女子トークをするようになり、確実に仲良くなってしまうことをまだ知らない。
そして黄瀬の他にも近未来では同じ悩みを持った仲間と同じような女子トークをするハメになることを予想できるわけもなかった。




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虹灰を目撃しちゃった黄瀬君が灰崎君に青峰っちのことを相談する話でした!
灰崎君と黄瀬君が女子トークしてるとこが見たかったんです。
ほのぼのな黄瀬君と灰崎君が大好きです。
書くか分かりませんが、高校編ではホモ歴が一番長い灰崎君に黄瀬君以外も相談とかしてたらいいな、と思います。
勿論皆最初は黄瀬君を介して灰崎君と知り合って除除に仲良くなっていって欲しいです。
高尾とか赤司様とか。あと黒子っちは灰崎君と相性良いと思います。
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