俺が灰崎祥吾を好きになった理由は分からない。
彼が言うようなキッカケとやらも多分ない。
ふと気が付けば好きになっていた。
思えば最初から好きになれるような所はなかった筈だ。むしろ悪い印象しかない。
自分を負かし、偉そうに上から見下してくるあの顔が態度が嫌いだった。
声を聞く度に何か黒いモノが己の中に溜まっていく。
こんな男に勝てない自分に苛立って悔しさで涙が出そうな日々。大嫌いで、大嫌いで仕方なかった。
だから大嫌いなアイツの弱点を探してやろうと息を巻いてひたすらあの男を見た。
見ているだけで吐き気がする程気分は悪くなる一方だったが、それでも見続けた。

そんな日が暫く続いたある日。
多分今まで見てきた中で何度か目にしたことはあった筈の光景に目を奪われている自分がいた。
例えば好物の唐揚げを食べて少しだけ表情が柔らかくなり、その日は一日機嫌良さそうに過ごしてたりだとかそういう単純なこと。
一人後者裏の階段に座って何か考えるように空を見上げる横顔や、屋上で無防備に晒されている寝顔。
それが何となく頭に残って、それを見る度ほっとするような落ち着かないような、胸の内にジクジクと出来た染みが広がる感覚。
以前の自分なら灰崎のどんな行動を見ても悪態しかつかなかった。
けれど灰崎のそういう顔を見たいと思う自分がそこにいて混乱した。
なんで、どうして。そんな疑問符ばかりが頭に浮かんでは答えを避けて通り過ぎていく。
いい加減嫌になるが、それでも見てしまうのは病気なんじゃないかと思う。
そして半ば諦めたように灰崎を見ようと視線を向けると偶然目が合ってしまった。
ヤバいと冷や汗が浮かぶ己に灰崎はゆっくりと笑ったのだ。
満面の笑みでもからかいの笑いでもなく、普通に笑い掛けてきた。
なに見てんだよ、と少しだけ楽しそうに目の色も普段とは違って見え、その瞬間鼓動が強く脈打ち不規則なリズムを身体に刻む。
なんだ、これ。
謎の焦燥感に黄瀬は中途半端な笑みを浮かべ、逃げるように早足で去った。

それからというもの、灰崎の姿を見る度心がざわついて意味もなく切なくなる。
声を聞けば鼓膜から身体中に伝染病のように熱が広がる。
どうしようもなく気になる存在を視界の中で探す。
そしてあの笑った顔に見惚れる自分を見つけた時、ああ、そうかと。
俺はこの男が好きなのかと自覚してしまえば話は早かった。
素直に認めることが出来た。


俺は灰崎祥吾に恋をしている。








*****







虹村と屋上で鉢合わせしたあの日以来、虹村と灰崎の距離は以前に増して縮まっているように見える。
何があったのか灰崎は話さないが何となく察しはつく。
正直こうやって相談に乗る必要はもうないんじゃないかと思うが、灰崎に頼られる限りそれに応えてしまう。
惚れた弱味とは怖い。
恋敵の協力をする損な役回りをしている女子を何度か見たことはあるが、その都度バカなコトしてんな、本気で惚れた相手なら奪うくらいしろよと思っていた。
多分女子は交友関係とかそういうのを気にするんだろうから俺とは少し違うけど、でも奪う勇気も出ずに底の部分で後悔しているのは同じだ。
好きな人に好きだと言う勇気は半端じゃない。俺にはそれがなかった。
怖さが勝って、振られれば確実に関係が変わってしまうという代償を胸に想いを告げるのはどうしても躊躇われる。
だから告白出来る人は本当に芯の強い人なんだと思う。

『好きだ』

低い熱の籠もった声が耳元を掠めた気がした。
ああ、そうだ。俺は青峰に告白されたんだ。
あの憧れて止まない唯一絶対の天才の光に好きだと言われ求められた。
彼でも告白することに恐怖を感じたりしたのだろうか。
あまり想像は出来ないが、そんな青峰も、灰崎に想うような気持ちを俺に向けているのだろうか。
胸を痛めて溢れんばかりの『好き』を持て余しているのか。
ソレが自分に向けられていると考えると何ともむず痒い感覚がする。
青峰は一体自分の何処を好きになったんだろう。
流石に本人に聞く訳にもいかないが、少し気になる。
こんな面倒くさい俺の何処を見て知って好きになったのか。
俺なら絶対自分だけは御免だと思うのに。

「おい、聞いてんのかよ」

思考する脳の中に鋭い声が突き刺さった。
声の方へ顔を向けると灰色の目がこちらを思い切り睨んでいる。

「え、あ………」

そう言えば今は灰崎と話をしている最中だったと思い出す。完全に忘れていた。
恨めしそうに見ている灰崎に謝ろうと口を開き掛け、そこで言葉が詰まった。

「……っ………」

今自分は何を思った。
『忘れていた』
確かにそう自然に思った、思ってしまった。
灰崎が隣に居て話しているという現在進行形の事実を『忘れていた』んだ。ソコに居たことを。
今までならこんなことは有り得ない。好きな人が傍にいてソレを忘れる。
なんで、俺は『忘れていた』んだ?
黄瀬は狼狽えるも遅れながらに謝った。

「あ、はは…………ごめん、ちょっと考え事してたみたいッス」

誤魔化すように後頭部を掻く。
纏う空気が普段より幾分か重い黄瀬の様子に灰崎は一人の人物の名を口にした。

「……………ダイキか?」
「っ、」

咄嗟の事で声が出なかった。目はおそらく動向が開ききっている。
灰崎に言われた言葉は動揺を隠しきれない程の衝撃だった。
その言葉を認めたくはないが事実であり、今自分が目を背けたモノ。

「なんで………」
「最近お前等1on1とかしてねーし、あからさまにお前ダイキのこと避けてんじゃねーか」

分かんねー方がおかしいだろ。
基本的に他人の関係に興味を持たない灰崎が気付いているということは周りにもそういう風に見えているのだろう。
それは流石にどうにかしなければいけない。部内の空気を乱すことはしたくない。
そう考えた黄瀬の思考が読めたのかは分からないが、灰崎は言った。

「ま、別にいんじゃねーの?今ムリに何かしようとしてもから回るだけだろ。それよか今は最低限表面だけ取り繕っとけ」
「……………ショーゴ君がマトモなこと言ってる………」
「殴んぞテメェ」
「いやッス」

米髪に怒りを浮かべる灰崎に自然と口が緩んだ。
こういう、他の人には絶対見せない優しさをくれるから諦めがつかない。
けどこの気持ちにも必ず終わりがくるわけで。
その時が来たら俺は素直にソレを受け止めることが出来るだろうか。
もし灰崎ではなく青峰を好きだったなら、こんな不安に駆られることもなかったんだろうなと思う。
こんなことを考える辺り自分の残念さが伺えるが。
それでも青峰にキスされた時何故か荒らんだ心が落ち着いた気がした。
唇に直接感じた他人の体温。
そこから流れ込んできた想いの心地良さに抗おうとしたのに、離れていく姿を見ると辛くなった。
手を伸ばしてしまいそうになった。
もう二週間も前の話なのにあの熱は鮮明に覚えている。
唇に触れた感触が忘れられない。
キスは初めてじゃなかった筈なのに、思い出すだけで息が苦しくなって脈が上がっていく。
なんだよ、これ。言いようのない感情。
指先で口に触れると甘い痺れが体に走る。

「リョータ?」
「……………っ」

灰崎に顔を覗き込まれ目が覚めたようにビクリと体を大きく揺らした。
いつもより近い距離に慌てて身を後ろに引いた。
言葉を発さない黄瀬に灰崎は溜め息を尽きながら呆れたように言う。

「何思い出してんのか知らねーけど、さっきから一人赤面してんじゃねーよ…………見てるコッチが恥ずかしいっつの」
「えっ、俺今顔赤い?」
「リンゴみてーにな」

言われて余計赤くなった気のする頬を両手で包むと確かに熱い。
何となくこれはヤバいんじゃないかと焦る。
何がどうヤバいのかは分からないが兎に角コレが今の自分にとって良くないモノであることは分かる。

「ショーゴ君、これ………何なんスか、俺すげぇ変なんだけど」
「………変っつーかそれ……」

灰崎が何か言おうとした時だった、鉄製の扉がギィと音を立てて開いた。
黄瀬はまた虹村が灰崎を迎えに来たのだと肩を落としながら段々と近付いてくる気配に目を遣る。
そして現れた人物に目を見開いた。

「あ、おみねっち」
「よお」
「お前がココに来んの久し振りだな、ダイキ」
「まーな」

灰崎も少々驚いたようで、青峰を不思議そうに見上げる。
以前は青峰も偶に灰崎と一緒に屋上でサボったり昼休みに昼寝したりしていたが最近は全くそれがなかった。
おそらく黄瀬が来ていたからだろうが、黄瀬が居ることを知っていて尚来たということは単に昼寝をしに来たのではなく何か用があるんだろう。
灰崎はそう当たりを付けると面倒くさそうにゆっくり立ち上がった。

「ショーゴ君?」

黄瀬の目が不安げに揺れた。
だが灰崎は特に気にした様子もなく言う。

「俺は教室戻るわ」
「えっ、ちょ………待っ」

て、と言い終える前に灰崎は去って行ってしまった。
何変な空気読んでくれてんのショーゴ君!という文句は誰に訴えることも出来なかった。
青峰と二人きりの空間に冷や汗が流れる。
何とか逃げられないものかと立ち上がり、青峰と距離を取るが腕を取られてしまいそれも叶わなくなった。
掴まれた腕が熱い。

「黄瀬」
「…………何スか」
「この間のこと気にしてんだろ。あからさまに人のこと避けやがって」
「そ、れはアンタがあんなコトしてくるからっ………!」

普通男にキスされりゃ誰でも気にするだろ!
そんなんで前みたいに絡めるわけがない。
しかもそれが自分を好きだと言う相手なら尚更だ。
キツく睨みつける黄金色の瞳に青峰は頭を掻きながら脱力した声を出す。

「あー…………この間のは一応悪かったとは思ってる。けどよ、あんなツラされて放っとける訳ねぇだろ」
「意味分かんないんスけど…………」
「とにかく、もう強引にはしねぇ」

その言葉を安易に信じる程自分は馬鹿ではないと思っているが、いつもの調子に喋る青峰に少し安心する。
しかしそれに反して妙に鼓動が速まり落ち着かない。
無意識にこのままでは駄目だと思ったのか知らないが体は青峰から逃げようと引いていた。
それに気付いた青峰はゆっくりと、それこそ逃げようと思えば逃げれるような動作と力で黄瀬を抱き締めた。
コンクリートの壁と青峰に挟まれた黄瀬は湧き上がる熱に体を強ばらせる。

「な、に」
「逃げんな、黄瀬」
「…………っ……」

耳元で聞こえた低い声に身体が震える。
あの時のように力で無理やり押さえられている訳じゃないのに、動けない。
背に回された腕が熱い。耳元に掛かる息が熱い。
布越しに伝わる青峰の鼓動が熱い。
その熱が伝染病みたいに触れた場所から広がって、ジクジクと心臓が蝕まれているような感覚。
怖い、怖い。縋ってしまいそうな自分が怖い。

「こういう、コト………しないんじゃなかったんスか……………っ」
「強引にはしねぇ、つっただろが。今のは無理やりじゃねーだろ、全然」

そういう問題じゃない。そう訴えて睨んでやりたかったが出来なかった。
今の自分の顔を青峰に見られるわけにはいかない。
こんな熱を持った顔を見られたらお終いだ。
そう思うのに黄瀬は青峰を突き返すことが何故か出来ずにいた。
すると青峰の腕の力が少し強まる。

「こうやって、よ」
「…………?」
「誰かにこういう風に抱きこまれんの、良くねぇ?俺はスゲー落ち着くけど」
「………っ、はあ?意味分かんね………」

いきなり何を言い出すのか、この男は。
黄瀬は更に体が熱くなるのを感じた。
こうされること自体別に悪いとは感じないがだからと言って良いと答えるのはまた違う。
ただ、意識すると分かる触れ合った部分の筋肉の硬さだとか胸の広さに弾けそうな程心臓が煩くなる。
触れた所から青峰の気持ちが全て流れ込んでくるようなそんな気さえしてくる。
温かいものが心臓を中心に湧いてくる。
そして無意識にだらんと垂れ下がったままだった黄瀬の腕が動いた。

「黄瀬?」

青峰の背中に力無く回された白い腕。
流石に驚いたのか黄瀬の顔に目をやると黄色い瞳は青峰を見ていて、その瞳の奥に見えた熱に心臓が射抜かれた。
コイツは自分が今どんな顔してんのか分かってんのか。
どうしようもない程愛しくて欲しくて仕方なくなる。
青峰は黄瀬の頬に指を滑らせ、優しく包んで訴える。

「キス、していいか」
「!」
「ムリヤリはしねぇ、だから嫌なら突き飛ばして逃げろ」

逃げ道は残してやる。そこから決めんのはお前だ、黄瀬。
黄瀬は真正面から見据えてくる蒼い目から顔を逸らせないでいた。
青峰に顔を覆われているからではなく、深い蒼に捕らえられたように目が動かなかった。
告白された時のような捕食者を前にし、逃げられないと悟ったアレとはまた違う。
これは、己の全てを包んでくれている。
だからこそ、優しさに満ちたモノだからこそ逃げられない。
音にもなっていない青峰の呆れたような小さな溜め息が聞こえた。

「目、閉じろ」
「…………」

言われるまま静かに目蓋を閉じた。
目の前の気配が動揺しているのが暗い視界の向こうに見える。
そしてゆっくり近付いてくる。


「…………ん……─────」






重なった唇は温かかった。








*****









二度目のキスをして以降、青峰は頻繁に黄瀬の元を訪ねた。
基本的には部活帰りや昼休み、サボりの時に声を掛けられてそのまま一緒に過ごしている。
ただ、青峰はあの日以来灰崎が居るときは来ない。
灰崎との邪魔をする訳でもなく黄瀬が独りで居るときだけ傍に居ようとする。
するのは他愛のない話ばかりで、でもそれが何処か心地良くてこの状況に絆されているのは自分でも分かっていた。
隙が出来ているのも自覚はしていた。
そして青峰はその隙をこじ開けるだけの強引さを持っていた。
柔らかな空気の中、掠めるように唇を奪われる。会う度、掠め取られる。
たった一度触れるだけのキスなのに、重ねれば重ねる程何処か満ち足りた気分になる。
灰崎と虹村が一緒に居る所を見ても前ほど苦しくなくなった。
これが何なのか答えを見つけるのが怖い。
けど、もうそうは言ってられないのも確かで。
俺はどうしたいんだ。








「話って何ですか、黄瀬君」


部活後、黒子を呼び出した。
彼なら何となく力になってくれそうな、自分が欲しい答えをくれそうな気がした。

「急にゴメンね黒子っち」
「いえ、この後は特に予定ないので大丈夫ですけど」

落ち着いた声に自然と冷静になる。
黄瀬は黒子にコトの大まかな流れを伝えた。
自分には好きな人がいて、その好きな人にも好きな人がいて二人は恐らく両想いであること。
その二人が付き合えるように協力していること。
そして苦しんでいる中、青峰に告白されたこと。
淡々と事実だけを伝えた。
その間黒子は黙って黄瀬の話を聞いてくれた。

「青峰っちと一緒に居て、キスされてる内に自分の気持ちが分かんなくなったッス」
「……あまりこの手の話は得意ではありませんが………黄瀬君は青峰君と居るときどういう気持ちになりますか」
「え………どういう、って」

青峰と居れば心が落ち着く。
空いた穴が徐々に満ちて包まれているような幸福感で溢れる。
まだ一緒に居たいと思ってしまう。
ただひたすら好きだという想いを注がれるのが心地良くて、それに甘えている。
でもそれは好きだと言ってくれている相手に対して失礼だ。

「俺は多分青峰っちを傷つけてるから、こんなこと言う資格ないけど………それでも好きになってもらったことが嬉しいし、一緒に居ると楽しいから離れて欲しくないんス」
「……あの青峰君が傷ついてるとかはないと思いますが」

むしろ黄瀬君がそういうコトを気にしてしまう性分であることも組み込んで迫っているんでしょうけど。
それは言わないでおきますか。青峰君も必死そうですし。
黒子は俯く黄瀬の顔を横目に音にもならないくらいの小さな溜め息を吐いた。

「では、君の好きな人と居るときはどうですか?その人と居るときと青峰君と居るときの違いは何ですか?」

一つ一つ答え合わせをしていくような質問。
黒子からすれば、無意識に頑なに答えを見ないようにしている黄瀬に自覚させるにはこれが一番手っ取り早い方法である。
逃げ道を一つずつ塗り潰していかなければ分からないというなら、全てなくしてしまうだけだ。
黄瀬は黒子の問いに更に表情を曇らせた。

「最初はあの人と居られるだけで良かったんスよ、ほんとに。けど、あの人があの人の好きな人と近付く度胸の辺りが痛くて辛くて…………好きなのにそれが憎くてほんと、頭おかしくなりそうだった。青峰っちと居る間はそんなこと考えてる余裕ないから、辛い事忘れられる。でもそんなの、青峰っち利用してるだけじゃないスか……キスだってそう。…………それが本気で許せなくて、けど俺のこと好きでいて欲しいなんて虫が良すぎだろって………」

泣いてはいない。けれど泣いているように聞こえた。
見ないフリじゃない。きっと彼は本気で自分の気持ちが分からずに混乱している。
恋をしたことがない自分には分からない感覚。
しかし、だからといって何も彼に伝えられない訳じゃない。
黒子は黄瀬の艶のある髪を優しく撫でた。
いきなりの行動に黄瀬はキョトンとした顔で黒子を見つめる。

「黄瀬君はもし好きだと言ってくれた相手が青峰君ではなくても心が揺れましたか。もしキスしてきた相手が青峰君ではなくても、好きな人を一時でも忘れることが出来ましたか」
「……黒子っち……?」

真剣な声と吸い込まれそうな澄んだ目に黄瀬の瞳は不安げに揺れた。
黒子は撫でていた手を髪から耳に、耳から凛とした輪郭にゆっくり指を滑らせる。
そして優しく微笑んだ。


「僕とキスしませんか」


言葉が出ない。
いつもなら黒子からこの距離に来ることはないが今は違う。
少し後ろから押せば本当にキス出来てしまう距離だ。
徐々に近付いてくる黒子に黄瀬は動くことが出来ずにいる。

「黄瀬君…………」
「……あ………」

皮膚が重なる直前、さっきまで動かなかった体は黒子と自分の口の間に手を差し入れていた。
黒子に押し付けた手の平には温かくて柔らかい感触。
咄嗟の回避行動に黒子は優しく笑った。

「黄瀬君は青峰君だから、キスも触れるのも許したんですよ」
「黒子っち…………」

その言葉に今されようとした事を漸く脳が飲み込んだ。
途端に羞恥が黄瀬を襲い顔が朱に染まる。
黒子は宥めるように黄瀬の頭をもう一度優しく撫でた。

「君は流されたわけじゃないです。もし今のが僕ではなく青峰君だったら君は許していたでしょう?」
「………そうかも、しんないッス」

黒子の言う通りもし相手が青峰だったなら許していた。
静かに目を閉じて重なる時を待っていた筈だ。
黒子以外の誰にされてもきっと許さない。誰でもいいわけじゃない。
そもそも他の人に告白されてキスされたとしてもこんな風にグチャグチャにはならなかっただろう。
こうなってしまうのは、こんな風に辛くて息が苦しくなってしまうのは彼だからだ。

青峰が好きだと言ってくれたからだ。


「黒子っち………ありがと」
「いえ、力になれたようで良かったです」

黄瀬は何処か憑き物が落ちたような顔をしていた。
まだこれが正しい答えかは分からないけど、でも今なら分かる気がするからそれでいい。
楽しそうな笑みを浮かべて立ち上がり、黒子を振り返る。

「青峰っちって、まだ残ってるッスかね」
「今日は自主練して帰るって言ってましたよ」
「分かった。ちょっと確認してくるッス」
「頑張って下さい」

黄瀬の今までとは違うすっきりした表情に黒子は安堵した。
これなら大丈夫。
青峰の元へ向かおうとする黄瀬がそういえばと、もう一度振り返った。黒子は首を傾げる。

「俺がもし避けなかったら、黒子っちは本当にキスしてたんスか?」

茶化して聞いているわけではないのは真っ直ぐな目を見れば直ぐに分かった。
そして黒子は答えを告げる。

「正直僕にも分かりません。だから、ありがとうございます」
「ははっ、何スかそれー」
「………黄瀬君、頑張って下さいね」

早くしないと青峰君帰っちゃいますよ、と言われ黄瀬は慌てて荷物を引っ掴み走り出した。


この気持ちを確かめなければ何も始まらない。
会って声を聞いて姿を見てこの感情に名を付けよう。
そうすればきっと誤魔化しじゃない本当の覚悟が出来る。
持て余した想いに決着を付けることが出来るから。
だから。




体育館に着くとボールが床に弾む心地いい音が聞こえた。
緊張で震える手でゆっくりとドアを開けるとゴールに向かって綺麗にデタラメにボールを放るその人がいた。
黄瀬はここ最近見せたことがなかった柔らかい満面の笑みを浮かべて言った。




「青峰っち、1on1しよ!」







───────────────────────────────

青黄要素しか詰まっていませんね………
黒→黄っぽく見える所がありますが違いますよ!
黒子っちは別にそういうのじゃないです。
個人的には黒黄好きなので、好きな人はそういう風に見て下さっても構いませんが(笑) 
あと虹灰入れるつもりだったんですが忘れてましたすみません
今から入れるのは色々めんど………問題があるかもしれないのでごめんなさい。
次は虹灰ガッツリ入れたいです。
あと次で最後です。
灰崎君が虹村さんを好きになった話を入れられたらなと思っています。
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