部活をいつも通りサボろうとする灰色の頭を見つけ、笑みを浮かべてその肩を掴んだ。
振り向いた顔に俺は言葉をぶつける。
「ショーゴ君、虹村主将のこと好きでしょ」
なんで、と。あの驚いた顔が今でも忘れられない。
それに気付いた理由は至極簡単な話だ。
ただ俺が灰崎祥吾という男をずっと見ていたから気付いた、それだけ。
いつから見ていたのかは分からない。
けど、俺は灰崎祥吾に恋をしたせいで気付かなくても良いことに気付いてしまった。
初めて好きになったヤツに好きな人がいたショックは思った以上にでかくて、どうすればいいか分からなかった。
そして俺は浅はかにも、今より近付けるかもしれない、そんな理由で何故か恋愛相談を受けることになっていた。
「ショーゴ君、また屋上居たんスか」
「……ウッセーな………授業なんつーかったりぃモン誰が出るかよ」
俺の邪魔すんなと言わんばかりに黄瀬に背を向けるように寝返りを打つ。舌打ちをされなかっただけまだマシかもしれない。
黄瀬は灰崎が寝返りした方へ移動すると少し距離を開けて座った。
明らかに灰崎の眉間に皺が寄ったのが分かり、笑みが零れる。ほんと、分かりやすい態度だわ。
「授業に出ないのは主将のこと考えて何も手につかないからっしょ?」
「なっ………はあ!?」
反射で起き上がった灰崎の顔はほんの少し赤い。
「ははっ!顔赤ぇースよ」
「…………っ」
顔を見られないよう背ける姿はやはり愛しくて手を伸ばしたくなるのを必死で堪えた。
絶対に灰崎にソレを感じ取られないように表情は決して崩さない。
こんな風に普通に会話出来るだけで十分だと自分に言い聞かせながら欲を理性で抑え込む。
チラとこっちを見る灰崎に黄瀬は小首を傾げた。
「なんスか?」
「……………今日部活行くから、虹村さんに迎えに来なくていいって伝えとけ」
「あれ?別に迎えに来てもらえばいーのに」
構って貰えるチャンスをわざわざ潰すようなことを言う灰崎を不思議な目で見つめる。すると酷く言い辛そうに灰崎は言った。
「あんまサボってたら何か………」
「嫌われるとか?」
目を泳がせる灰崎は図星のようで口を噤むだけで否定の言葉はない。こういう所は案外素直だ。
相談する上で灰崎は虹村のことに関してだけは嘘をつかないことが分かった。いや、つけないのかもしれないが。
「俺は別にそんなん大丈夫だと思うんスけどねぇ」
「たまには見直されねーと愛想尽かされんだろが」
こういう話をする時はいつも、灰崎のような男でも好きな人に好かれるために色々試行錯誤するのか、と感心する。
どうしてその相手が自分じゃないのかと思うことにももういい加減慣れたが。
「ま、確かにちゃんと練習参加したら頭とか撫でてくれるかもしんないッスね」
「……あー………かもな」
気難しい顔をしていても照れているがバレバレだ。黄瀬はクスと笑い灰崎の頭を撫でる。
思ったより柔らかい髪をいつまでも触っていたかったが直ぐに振り払われた。
「キメェことすんな」
「えー、ケチ」
「俺にそういうコトして許されんのはあの人だけなんだよ」
「うわー………ショーゴ君も中々ッスよね」
うっせ、と一蹴する灰崎に乾いた笑いを零し、黄瀬は立ち上がった。
黄瀬を見上げる灰崎の目には何の熱も籠もっていない。
それが当たり前のはずなのに、心に突き刺さる。
心地良い風を受けながら笑いかけた。
「ショーゴ君は主将に今日はどんなアタックするんスか?」
「ばっ………しねーよ」
そもそも仕方が分かんねーし。
そうぼそりと呟いた灰崎の前に屈むと、黄瀬はもう一度手を伸ばして頭を撫でた。
一瞬身体を強ばらせ、手を払う動作に入る灰崎に鋭い声で指摘する。
「ソレ」
「は?」
黄瀬は一度手を離し呆れたように溜め息を吐いた。
「ショーゴ君さ、主将に偶にこういうコトされた時も同じように振り払ってるでしょ」
「あ?なんか文句あんのか」
「文句っつーか、そうじゃなくてさ。次された時は振り払うんじゃなくて大人しく撫でられてみたら?多分そういう素直な行動されたら主将もショーゴ君にギャップ感じて可愛いって思うんじゃねースか?」
「大人しく…………」
想像をしているのか段々と赤みを帯びる顔は正直可愛い。
恐らくこの顔を見せるだけでギャップ効果は十分だとは思うが、本人に言えば怒らせそうだ。
頭を捻らせて唸っている灰崎を見る限り、素直になることは彼の中で最も難しい部類なんだろう。
ただ素直に身を任せれば良いだけなのに。
いや、それが出来たら苦労しないか。ショーゴ君も、俺も。
「俺で練習してみる?俺が撫でてる間、アンタはただ大人しくしとくだけ」
簡単じゃね?黄瀬の言葉に灰崎は珍しく素直に従った。
頭に伸びた手にされるがまま大人しく任せる。
まるで犬だな、と黄瀬は灰崎を見下ろしながら思う。
暫くして灰崎の顔の歪みが増した頃、黄瀬はようやく手を離した。
「ん、まあこれくらい我慢出来れば上出来じゃないッスか」
「じゃあ早く退けろ」
「はいはい、俺相手じゃイヤに決まってっからねー………」
睨みつけてくる瞳に溜め息を吐く。
きっと主将の前ではもっと可愛げのある態度を取ってくれるのだろうが、仕方ない。
予鈴が聞こえると同時に黄瀬は灰崎の傍から離れると屋上の鉄扉を開け、振り向きざまに笑って言った。
「頑張ってね、ショーゴ君」
口から出たのは思ってもない言葉だった。
扉が閉まり、階段を数段降りると屋上を振り返る。
いつもアソコで想い人が来るのをただ待っているのがいじらしい。
灰崎に使うには明らかに不釣り合いな言葉だがそれでも黄瀬は灰崎をそう思った。
その姿を見る度、話を聞く度、後悔は募るばかりだ。
どうして協力するなんて言ってしまったのか、あのまま事実を突き付けずに迫ってしまえば良かったのに。
そう思うのに、あの時は事実を突き刺され驚いた灰崎の顔に高揚した自分がいて、今は二人だけの秘密を共有することに喜ぶ自分がいる。
本当はあの時、灰崎の秘密を盾に無理矢理手に入れることも恐らく出来た。
一言、『バラされたくなかったら、俺のモノになってよ』と言えば良かった。
けど、出来なかった。どうしても喉につっかえて出てこなかった。
手を伸ばせば捕まえられたかもしれないのに出来なかった。
気がつけば協力すると口走っていた己を今になって呪う。
*****
灰崎は屋上でHRが終わったことをチャイムで知ると、重たい体をのそのそと起こした。
長い間硬いコンクリートに身体を預けていたせいか、関節の節々が軋んでいるような気がする。
大きな欠伸をしながら手足を伸ばした。やはり痛い。首を鳴らすと鞄を乱暴に掴み部活へ向かった。
少しの期待と緊張を胸に抱きながら、普段より幾分か速い鼓動に舌打ちする。
「…………チース」
部室に入ると既に何人かの部員が着替えていた。
部員は灰崎の姿を見て固まっていたがそそくさと着替えを進め、足早に体育館へ向かっていく。
自分は余程部員に嫌われているようだ、と苛々する感情のまま舌を打った。
虹村がいない時の灰崎に近付こうとする部員はカラフルな頭をした一年レギュラー以外基本的にいない。皆灰崎を恐れ嫌っている。
普段の粗暴な性格は勿論のこと、強奪という技のおかげで誰も近付こうとしないのだ。
「こんなんで誰が来る気になんだっつの…………」
「でも虹村さんが居るなら来てやってもいいぜ、ということですか」
「そりゃ…………うおおっ!?テツヤいつの間に!!」
突然の呼びかけに灰崎は肩をびくりと大袈裟に揺らして背後を振り返るとそこには影の薄い少年。
いきなり現れたことに文句を言えば、まるで心外だとでも言うように微妙な顔を向けられる。
そうしたいのは俺の方だという訴えも無駄な気がして口には出さなかった。
「で、今日はどうしたんですか?」
「別にどうもしねーよ。気が向いたから来た、そんだけだ」
「……そうですか」
素直じゃないですね、とは言えなかったが変わりに暖かい目を向けておいた。
灰崎はそんな黒子を気味悪がっていたが黒子は特に気にしない。
それよりも早く彼の想い人が来れば良いのに、そう思いながら淡々と着替えを済ました。
体育館へ行くと視界に入ってきた自主練を始めている部員と、灰崎は縁遠い性分故に隅で退屈そうに佇んだ。
こんなに早く来るんじゃなかったと思うも帰らず待っている自分に苛立つ。
不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、閉ざした口からは時折舌打ちが繰り出される。
「……………クソ……」
おっせーな、そう口に出すより先に声を掛けられる。
「はーいざーきくーん」
「…………ゲ、虹村さん」
嫌な訳じゃないのに嫌そうな顔をしてしまうのは最早反射といってもいいかもしれない。
自分より上にある顔を下から睨みつけるように見るとニヤニヤと何処か嬉しそうな顔で肩を組まれた。
近さに思考が固まる。
「お前やりゃできんじゃねーか、俺の教育もとうとう実を結ぶ時が来たか」
「は、はあ?俺は別にアンタに言われたから来た訳じゃ………!つかアンタのアレは教育なんかじゃねーだろ!」
そんな生易しいもんなわけあるか!
虹村の腕を振り払い正面に押し返し睨むと頭に温かい感触が伝わる。
「次も今日みたいにちゃんと来いよ?」
伸ばされた腕が視界に入り、虹村に頭を撫でられているのだと初めて理解した。
最初は目を見開いていた灰崎だが次第に湧き上がる熱に思わず下を向く。
虹村からすれば頭を撫でられることに対して大人しく頭を下げているのと同じで、思わぬ事態に思考が固まるが手だけは動いていた。
「………………」
「………………」
二人の間に言葉はない。虹村は灰崎の普段とは違う素直な態度に戸惑いで内心かなり動揺していた。
てっきりいつものように振り払われるとばかり思っていたのに。
引っ込めるに引っ込めなくなった手は灰崎をひたすら撫でている。
灰崎は灰崎で慣れない行為に頭は爆発寸前だ。
気恥ずかしさで顔を上げられない上に、もう少しこのままで居てもいいんじゃないかという欲で振り払えずにいる。
この後のことなんて考えている余裕もない。
ふいに虹村が灰崎を呼んだ。
「灰崎」
「?」
呼ばれた拍子につい顔をそろ、と上げてしまった。
灰崎の顔を見た虹村は少し驚いていたようだが、直ぐに優しい表情に変わった。
虹村は灰崎の頭に手を置いたまま、笑って言う。
「なんか可愛いな、今日のお前」
言われた言葉を呑み込むのに数秒はかかったかもしれない。
この人は今何て言った?
『可愛い』
脳内で反濁された音声に顔がガッと熱くなるのが分かった。
「っ……、……っ!!」
気が付けは灰崎は虹村の腕を振り払い体育館から走り出していた。
後ろで自分を呼ぶ声がしたがそれどころじゃなく、ただ逃げるように走っていた。
息も絶え絶えになり立ち止まるとそこは体育館と反対側に位置する校舎の裏で、とりあえず落ち着くために一度腰を下ろす。
「……ハ……っ…ッ…は……!」
誰にも見られないよう隠すように顔に掌を押し当てた。
体中の血が沸騰したように熱い。鼓動が速い。呼吸が上手く出来ない。
虹村さんに『可愛い』と言われた瞬間、心臓が止まるかと思った。
自分を表現するにこれほど遠い言葉はないだろうと思うのに、これが他の奴に言われたなら適当にあしらって終わりなのに、出来なかった。
虹村さんだから出来なかった。
「……ックソ………!……なんで、こんな……」
こんなにもあの人が好きなんだ。
ただ気を引きたかっただけだった。
そのせいで余計にあの人堕ちていく自分がありありと分かって自己嫌悪する。
何をしても何をされても全ての行動の行き着く場所は同じで、いい加減耐えられない。
好きだと頭の中で何度も何度もぶつける先のない言葉を叫んだ。
******
屋上のぱっと見では視界に入らない裏側に寝転ぶ灰色の頭を見つけて近寄る。
寝ているのかと声を掛けずにそのまま腰を下ろした。どうしたものか、黄瀬は黙って灰崎を見つめ、それから空を見上げる。
すると隣から低い声が唸るように言った。
「今日も来たのかよ」
「………起きてたんスか」
相変わらず不機嫌そうな振り向いた顔に笑う。
実際嫌がられてるんだろうなとは思うが止める気はない。
嫌そうではあるが、こうして言葉を交わすということは多少なりとも気を許してくれている証拠だ。
それに灰崎は人に構われること自体嫌いじゃない筈で、むしろしつこいくらいが彼にはちょうどいいのだ。
そもそも本当に嫌なら口すらきかないだろう。
それが分かっているから何度でも食らいつけるのだ。
「昨日、見てたよ」
「!」
あからさまに肩を揺らした灰崎が可笑しくて、そんな反応してもアソコに居た人達は大概見てたよ、と伝えてやりたくなったがそれは心の内にしまった。
伝えたら取り乱す所か勢いで殴られそうだ。いくら好きとは言っても痛いのは頂けない。
「ちゃんと我慢出来てたじゃん?主将すっげ驚いてたし、なんか心なしか嬉しそうに見えたッスよ」
「……………………」
ニコニコと効果音でも付きそうなくらいに胡散臭い笑顔のモデルを心底鬱陶しそうに睨む。
「えっ、何でそんな顔するんスか!」
「うっせ、死ね」
ヒドいッス!と吠える黄瀬に灰崎は腰を漸く起こした。
気怠げな態度だが会話の意志を受け取った黄瀬は表情筋を弛める。
多分何か話したいことがあるのかもしれない、素直じゃないから言い出せないだけで。
黄瀬は灰崎が話しやすいよう会話を繋げる。
「主将、ショーゴ君が部活来たの相当嬉しかったんスね、まさかほんとに撫でるとは思わなかったし」
「…………」
「ショーゴ君、あの時何で走ってっちゃったわけ?主将びっくりして………た…」
そこで灰崎の表情が酷く険しくなったことに気付いた。ほんとに分かりやすい。
まあ大体そこの話だろうとは思ってたけど聞きたいようで、その実あまり聞きたくない。
だって、そうだろ。あんな耳まで赤くして走り去って行く理由なんて限られてる。
聞かずにそのまま流してしまえばいい。聞いたって俺にとって良いことなんか何もない。
知らない、気付いてない、それでいい。
なのに。
「主将に何か言われた?」
気がつけば勝手に口走っていた。
あぁ、何で自分はここで聞いてしまうんだ。
灰崎は一度黄瀬に視線を向けたが直ぐに逸らした。
言うか迷っているようで眉間に更に深い皺が刻まれる。
黄瀬としてはそのまま口を閉ざして欲しかったし、耳を塞いでしまいたかった。
しかし己の口は意志とは無関係に動いているようだ。
「言ってよ、ショーゴ君。話ちゃんと聞くし」
「……………別に大したことじゃねー、よ」
「ウソ。顔少し赤い」
「…………っ!」
咄嗟に顔を覆った右手が何かあったことを物語っている。
からかうような笑みを浮かべた黄瀬に灰崎はしまったと汗を流した。
「ほら、ね」
「…………チッ」
舌打ちし、観念したように灰崎は不服ではあるが仕方なく教えることにした。
しかし自分が言われたことをそのまま伝えるのには抵抗がある上、相手が黄瀬であることが邪魔をする。
ジッと見つめてくる瞳に嫌々ながらも覚悟を決めて口に出した。
「……あの人が俺に…………か…か、」
次の一言が言えない。
それをフォローするように黄瀬が付け足した。
「可愛いって言われた?」
「………………………」
長い無言で黄瀬は自分の答えが正解だと知る。心臓に杭が打たれたような気分だ。
徐々に赤みを増していく肌に歯を食いしばった。
きっと今彼がうなだれていなかったらこの酷い表情を見られていただろう。こんな所見せたくない。
大丈夫、大丈夫だから、俺は………大丈夫。
言い聞かせるしかなかった。
「可愛い、か」
「笑いたきゃ、笑え………んなコト言われてこんななるとか俺だって気持ち悪ィ………」
「別におかしくないし、笑わねーよ?」
本音だ。おかしいのは俺の方。
灰崎は訝しげに黄瀬を見た。
それは疑惑の目で本当かどうか確かめるような行動に黄瀬は綺麗に笑ってみせた。
すると少しホッとしたような灰崎にしては珍しい顔をしていた。
時折そんな誰にも見せないような顔を見せるから俺は、好きだな、と想ってしまうんだ。
「俺は主将がショーゴ君に可愛いって言った気持ち分かる」
え、と黄瀬を凝視した灰崎に飛びきり優しく微笑を浮かべて言った。
「俺は脈、あると思うッス」
言わなくていいことをわざわざ口にする自分をどんなに殴り飛ばしたいと思っただろうか。
本当は気付いていた。
体育館での事を見る前、灰崎に近付いたあの時よりずっと前から気付いてしまっていた。
だから悟ったんだ。ああ、これは叶わぬ恋なのだと。
手を伸ばしても届くことはない想いだと知っていたから、だからせめて傍に居られたらとそう願った。
協力する気なんか本当はなかった。けど、自分でそうすると言った以上それ以外で彼に近付く理由がない。
それに今まであった心の壁みたいなものが少しずつでも溶けて、以前とは違う関係になる温かさがじわりじわりと内側に広がっていくそれが嬉しくて手離せなくなっていた。
最初は慣れずに警戒されてばかりだったけど、最近では灰崎自身、そういった相談をすることに対して心の内を見せてくれるようになっている。
そして本人は無自覚かもしれないが、後押しする一歩を自分に求めている。
だからって背中を押すようなマネ、多分普通はしないんだろうけど。
でも俺はした。
したくない気持ちの方が勝ってるのに、体は正反対に動いてあの二人を結ぼうとしている。自分で自分が分からない。
こんなに好きなのに。
抱き寄せて、驚いた顔にキスして、好きだよって笑いたい。離したくないと独占欲を出して叱られて。
そんな普通の恋がしたい。抱き合って求めて愛したい。
本当に好きなんだ、と叫んでしまいたい。
壊れる程、想っているのに。
それなのに、あの二人が結ばれることが自然なことのように思えてしまったんだ。
灰崎の背中を押し、後悔の念を背負いながら気がつけばひと月が経とうとしていた。
そして一ヶ月の間で灰崎と黄瀬の仲は周りから見れば恐らく急速に縮まっていった。
当人からすれば急速なんてとんでもないと口にするだろう。体感速度的には一年といっても過言じゃない。
元々の仲の悪さが災いしてか、警戒心の高い灰崎に懐かれるのは本当に骨が折れた。
仲が悪いことを抜きにしても灰崎に好かれた虹村修造という男は凄い人だ。
最近では灰崎の傍にいるのは自分だが、それでもあの人には勝てない。多分、一生。
偶にだが灰崎は黄瀬の前でも笑うようになっていた。
今はもうそれだけでいい。それだけで十分だ。
誰にもこの気持ちを知られないように隠してしまおう、そう思っていたのに。
なのに、どうして
「お前、灰崎が好きだろ」
いつものように青峰と1on1をしていた。
もう一回と何度も強請っては打ち負かされ馬鹿にされ、それでもやっぱり彼とやる1on1は楽しかった。
灰崎との事だってこうしている間は忘れることが出来た。
それが、どうして。
鈍器で殴られたような衝撃が黄瀬を襲った。
汗だくになり疲弊した身体をなんとか両脚で支える。
青峰の言葉に咄嗟に反応する事が出来なかったのは痛い。直ぐに否定しておけば良かった。
それでも黄瀬は笑顔を貼り付けて否定の言葉を並べた。
「ははっ、何スかそれー。俺がショーゴ君好きとかドコ情報?確かに最近は喧嘩とかしてないけど、それで好きとか決めつけられんのは心外ッス。青峰っちの勘違いだから、ソレ」
その言葉に青峰の反応は特になく、落ち着いた眼で黄瀬を見据えている。
いつになく真剣な青峰に黄瀬はまずいと直感で思った。冷や汗が頬を伝う。
「俺はお前らがそうなるずっと前から知ってた。ずっと見てきたからな、お前のこと」
「ずっと前って、何スかそれ………俺、違うって言ってんだけど。それに見てきたって………」
「分かんだろ」
「……………っ、」
有無を言わせない眼差しの鋭さに息を呑んだ。
しかし青峰の言う意味は分からないし分かりたくもない。
ジリ、と一歩足を下げた分だけ青峰は黄瀬に近付いた。逃がさないとそう獣じみたオーラが黄瀬を捕らえる。
殺されそうだと錯覚してしまう程の激情が静かな色をした眼光から滲み出ている。
青峰は更に黄瀬と一歩距離を詰めた。
「もう少し放っとくつもりだったけどよ、もうムリだわ」
「………え?……な、に」
また一歩踏み出した青峰に身体がびくりと強張る。
「そんな辛ぇなら………んなツラするくらいなら、」
「っ、」
そんな、全てに諦めてそれでも涙を隠して薄っぺらい顔で笑うくらいなら、
俺がちゃんと心の底から馬鹿みたいに笑かしてやるから、
だから、
「俺にしとけ」
低い、いつもより優しい声に何故か泣きたくなる。
何を言われているのか混乱した頭ではその意味を正しく理解出来なかった。
けれど次に告げられた言葉だけははっきりと理解出来た。
青峰は先程まで使っていたボールを山形に黄瀬へ放る。
それを受け取った瞬間、静かな熱の籠もった声が空間に響いた。
「好きだ、黄瀬」
俺はボールを地に落とした。
─────────────────────────────
黄瀬君が良い子です。
基本的には黄瀬君主体で進みますが途中途中挟むと思います。
皆、純粋に誰かを好きになって悩んで時には強引に、そんな恋が書けたらいいなと思います。
というかこれ需要あるんでしょうか。
完全に虹灰+黄灰+青黄を同時に愛したい人(私)向けの話ですけど。
私は楽しいですけどね(笑)
次話は青黄要素強めになると思います。
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