「ん、………」


古市のカッターシャツのボタンを順番に外しながら舌を絡めとり、ちゅ、と吸い付く。
感じたことのない優しい甘い感覚にまた涙が溢れ出し、繋げていた口を離して東条の大きな手がそれを拭ってやると、古市は八の字に眉を曲げて笑った。
拭ってもなお目尻に溜まる涙と、その笑みと流れる銀髪が綺麗で目を奪われる。
透けてしまいそうなほど白い肌も、涙のせいでキラキラと光る睫毛も、凛とした鼻立ちも全てが綺麗だ。

触れるのを躊躇ってしまうくらいに。



「東条さん………触ってもいいですよ……?」

古市の体を凝視していたせいで我慢しているように見られたようだが、実際は見とれていただけだ。
そして、触りたいと思った。
男にしては肌触りの良い綺麗過ぎる肌を指先で撫でるとくすぐったいのか古市の体はピクピクと反応を示す。


「古市…………」
「ふ、ん…………っん」

唇を再度重ねれば先程のように唇の隙間からくぐもった声が漏れる。
指先で古市の肌を撫でながら徐々に上部へ持っていき、胸にある淡いピンク色の突起を触った。
指でくにくにと押し潰したり摘んでみたり、その度に古市の体は揺れて感じているみたいだ。

「なぁ…………」
「なんですか……」

「本当にいいのか…………?」

古市が抱いてくれと言ったときかなり戸惑ったし、言われた瞬間は前回同様抱くつもりはなかった。
だが、古市の泣き顔を前にして断れる奴はそういないはずだ。
少なくとも古市が好きな俺には我慢出来なかった。

まぁ我慢出来なかったのもあるが…………一番の理由は男鹿にもうあんな顔をさせるなと忠告してやったのに、泣かせやがった事実。
本気で頭にきた。

アイツに任せてたらまた泣かせる。

だから

奪ってやることにした。




「本当にいいのか」

「言ったじゃないですか。俺、東条さんが好きです…………」

最初は奪ってやるつもりだった、本気で男鹿の手から俺の手の中に入れて離さない、そう覚悟して古市を布団の上に押し倒したのに。



「何が『好き』なんだ。お前、泣いてんじゃねぇか」

さっきからずっと泣いてばかりいるのは、内心は男鹿を信じたい気持ちがあるのに俺と体を繋げることで本当の意味で裏切ってしまう罪悪感から。
なんだかんだと文句や弱音を吐きながらもこいつは男鹿を好きだ、なのに今は俺を本気で好きになろうとしている。

…………好きになろうとしてくれるのは嬉しい。
だが古市は俺に救われたいと願いながら、自分を傷付けることを選んだ。
こいつは俺と一緒になることで男鹿への罪悪感に苦しみ、これが最も自分を傷付ける方法だと知った。
自虐行為に走りたくなるほどの出来事なのかと問いたいが………聞けばこいつは逃げる。


「………東条さんやっぱり優しい。俺、東条さんのそーいうトコ好きです」
「お前………」

「俺は東条さんがいい」
「………………」

「東条さんが居ればもう………っ」
「古市」

東条の大きな手に口を塞がれた、これ以上喋るなとでも言うように。



「そんな顔で笑うな」
「……………」

「泣きたいならずっと泣いとけ」
「もう………涙止まりましたから………、出ません」

さっきまで泣いていた古市の目は乾いていて、残っているのは目尻にある涙を流した赤い痕。
薄く笑みを浮かべる古市は確かに綺麗だと思えても、それは偽りであってこいつの笑顔じゃない。


「泣くの、格好悪いですよね……」
「別に格好悪くねぇ………、笑えねーときに無理に笑うほうが格好悪ぃ」

「……………」
「もっと泣いてスッキリしてから笑え。俺はお前の泣いてる顔も好きだが…………」


それ以上に




「笑ってる方がお前には合ってる」




「……………っ」

そう言って抱き締められ、古市はまた泣き出した。


なんで貴方には俺の考えが分かる?
何も言わずにただ抱いてくれれば良かったのに、それだけで良かったのに。
どうして俺の欲しい言葉が分かるんだろう。


なんで

なんで

なんで


疑問符ばかりが頭に浮かび上がってくる。




「どうして俺の好きな人は東条さんじゃなくて男鹿なんだ……」




東条さんのことは好きだけど、触られて分かった…………男鹿以外には触られたくないと俺の体が言っていた。
自分を傷付けることが目的だったのに、何故かそれよりも男鹿以外の人に触られることが嫌で仕方ない。

心が東条を求めていても、体は東条を拒否する。
心が男鹿を否定していても、体は男鹿を求めている。

矛盾した俺。




「男鹿なんか嫌いになりたい……」
「そんな簡単に嫌いになれるくらいなら最初から好きになってねーだろ?」

「………そう、なんでしょうね」
「古市、俺は」



バタンッ!!!とドアが開く音がしたと思ったらドカドカと騒がしい音が近付いてくる。

まさか、と思った。

だってアイツは船の上にいるはずだ。

こんな場所に来るわけがない。



来るわけがない、のに







「古市!!!」



「…………!!?」



古市を見て目を見開く男鹿。 信じられない光景が目の前に広がっている。
古市の衣服は乱れ、その上に東条が覆い被さっている状況は正に今、事に及んでいるようにしか見えない。
それだけで既に男鹿の中の糸が切れてしまいそうなほどギリギリと音を立てているのに、古市の目に浮かぶ涙がソレを引きちぎった。


「古市に何してんだテメェ!!!!」
「…………ぐァッ…!!」


男鹿に掴みかかられ殴り飛ばされた東条は吹っ飛ばされた弾みで机に激突し、頭を強打する。


「な、お前っ!何やってんだよ!!東条さん大丈夫ですか!?あ、や、待っ…………男鹿!!」
「いーから来い!!!」

男鹿は古市の腕を掴み、強引に東条の家から出て走る。
腕を引っ張られながらどれくらい走ったのか、体力馬鹿の男鹿でも肩で息をしているのが後ろから見ていて分かる。
あの体力馬鹿がそうなのだからひ弱な俺はとっくに体力の限界がきていて、とうとう男鹿の腕を振り払った。


「も、無理………!!はっ……はぁっ……!」
「…………っは、………古市」

「なん、だよ………っ………ぁ、………ん、ぅ……う」


肩を掴まれて、何処かの家の塀に体を押し付けられたまま拒否する間もなく唇を合わされた。
押し付けるだけのキスを顔を横に反らして避けたが、それでも男鹿は何度も唇を重ねてくる。
男鹿らしい強引な、でも何処か優しいキスを受け入れそうになるのを必死に否定しながら男鹿を突き飛ばした。

全速力で走った後だったからなのか、男鹿はいつもの馬鹿力を発揮することなく、あっさりと突き飛ばされた衝撃に従って後ろに後ずさる。
拒否されても古市に手を伸ばしたが古市はその手も自分の手で払った。
拒否する古市の顔は下を向いていて表情を伺えないため、覗きこもうとすると古市から泣き声にも似た、揺れた声が耳に届いた。



「俺は東条さんが好きだって言っただろ……………!」




「……………言ったな」
「だったら……………もう」

古市の声は………いや、声だけでなく体も震えていて、もしかしたら泣いているのかもしれない。
なんとなく抱き締めたい衝動に駆られて引き寄せた。
さっきは俺以外に触らせたことが嫌でムカついて、走ってる最中に後で一発殴ってやろうと決めていたというのに、そんなこと今は吹き飛んでいてただ古市を包みたい、それだけだった。

泣くなら俺の胸で泣け、と。
抱き締めた古市からは古市の匂いに混じって東条の匂いがして、それが古市が東条のものだと言っている気がする。


古市はもう俺のじゃない………のか?




「……頼むからもう言うな」
「……………?」

「東条が好きとか言うな。聞きたくねぇ………」
「お、が…………お前……」


強く腕に力を籠める男鹿の背に古市も腕を回して抱き返すと、男鹿は驚きで腕から力を抜き、古市の顔を見た。
古市の顔には悲しげな笑みが浮かんでおり、月光に照らされた古市は男鹿の頭を緩く撫でる。


「……泣いてんじゃねぇよ、馬鹿」
「うるせぇ…………テメェのせいだろが」

「泣くほど…………嫌か?」
「嫌だ。古市は誰にも譲りたくねぇ」


男鹿の目に浮かぶ涙は純粋で、自分の感情に一途だからこそこいつの涙は綺麗なんだと静かに感動を覚える。
俺が全部間違ってた。

男鹿はきっと俺と誰かを比べるとか、俺よりこっちが良いとかそんなのない。
俺は自分で勝手に邦枝先輩と男鹿のことが心配で堪らなかった、それがすでに間違いだった。
男鹿は俺以外見えていない。 自分の懐には俺しか入れない。


「………………男鹿は俺と邦枝先輩だったら…………俺?」
「当たり前だろ。つかお前と比べれる奴いねーよ」

確認するまでもなかったことなんだ、全部。


「男鹿、俺が東条さんを好きなの嫌なんだよな」
「嫌」

古市は男鹿に自分から強く抱きついて耳元で囁いた。



だったら俺をどうしたいか言ってみろ





「言ってもいい、んだな」

返事の代わりに男鹿に顔を擦り寄せた。




「俺のものになれ、誰にも触らせるな。ずっと……………

ずっと死ぬまで俺の傍から離れんな。

俺がお前を離さねぇから」




「うん…………」

互いにこれ以上ないくらいに抱きしめ合った。




「好きだ、古市」

「………俺も好きだ………男鹿」




好き。




どうして俺は男鹿が好きなんだろう。



なんて…………理由なんかない。
俺は男鹿じゃなきゃいけない。 それは決められたことだから。


「古市だって泣いてんじゃねーか」
「うっせぇ黙れ…………!」

「……………好き」
「……………………ばか」


人通りがないとはいえ公道であるということを思い出して急に我に帰り、名残惜しくも男鹿の腕から脱した。
男鹿は不満げだったが仕方ない。


「そ、そういやお前どうやってこっちまで来たんだ?」
「あー?普通になんか嫌な予感がしたからアランドロン呼び出して古市のとこ連れてけって」

「いやはやあの時の男鹿殿の強引なことと言ったら思い出すだけでも………ポッ」

「うわっ!お前いつのまに!!」

横を見るといつの間にかアランドロンが立っていてビデオカメラを片手に頬を染めている。
気持ち悪い。

「ん?ビデオカメラを片手に…………?」
「はいっ、貴之殿と男鹿殿の感動のラブシーンをぜひ皆様にも見ていただきたく、この魔界製ビデオカメラに一部始終を納めさせて…………っいやん何をなさるのですか!」

「ふざけんな!!かせ!!ぶっ壊す!!」
「別にいいじゃねーか古市、カメラの一個二個…………」

「そんなことより男鹿殿、これから部屋に行かれるのでしたら私が送って差し上げましょうか」

部屋というのはもちろん男鹿の部屋だ。
たしかにここからだと家まで20分かかるため断然アランドロンを使ったほうがいいのだが………

「いや、いい。古市と歩いていく」
「え?え?」

「分かりました。では船に戻るときにまたお呼びを」

それだけ言うとアランドロンは何か意味不明なことを叫びながら走り出して消えていった。
古市はいまだよく状況が理解出来ずに男鹿を見上げると、男鹿は古市の手を自分の手と重ねて繋ぎ合わせる。

勝手に歩き始めた男鹿に手を引かれ、男鹿の半歩後ろを歩いていると男鹿は急に振り返って古市と唇を重ねて笑った。



「着くまでに覚悟、決めとけよ」

「………!!!」



その意味が分からないほど子供じゃない。

………………覚悟か。



そんなのもう決まってる。

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下に続きます。

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