俺と男鹿はなんやかんや色々あった。色々あった結果、付き合うということになったような気がする。
気がするというのも、そうなってから三ヶ月近く経つわけであり、付き合うことになって以降これといって何の進展もないからだ。
お互いの気持ちを恥じらいながら打ち明けたことが嘘のように何もない。
あの勇気は一体なんだったんだ。告白して恋人になった意味って何だろうな。
今までと何も変わらないなら友達のままで良くね?的な考えがここ最近俺の頭の中をぐるぐるしている。
まだ、あ、愛の言葉?とかを言い合うまでに進展したならいい。
俺達にはそれすらない。男鹿は俺のこと割とどうでもいんじゃね?ってレベル位何も言わない。
え?俺から言えばって?ないない、そんなんハズいじゃん。
けど俺だってやっぱり男鹿と…キス……とか?……まぁ甘い感じでハグしたり……とか……したいわけで……
それ以上はまだ考えてないし考えれないけど、もっと恋人的な意味で触れ合いたい。
恥ずかしい、けど………だからここ一週間くらい俺は頑張った。
男鹿とキスしようと色々作戦考えて遠回しに伝えてみたり、雰囲気作ってみたりもした。
だが俺は甘かった。邦枝先輩の好意にあそこまで鈍い男鹿が遠回しな表現で気付く訳がない。
男鹿相手に雰囲気作りなんかもっての他だ。もうここは正攻法で『キスしたい』と言い出すしかない。
恥を忍んで言うしかないんだ。
あー……でも男鹿のことだからなー………めちゃくちゃからかってくるだろうなぁ……殴るけど。
今は幸い男鹿と部屋でほぼ二人きり(べる坊は寝てる)。
恋人放っといて呑気にジャンプ読むような奴に俺は負けない。
絶対キスしてやる!
そう意気込んだ古市はそれでもやはり雰囲気は多少いるか、とまずジャンプを読む手を止めるつもりでそっと男鹿の手に自分の手を触れさせる。
「古市?」
あれ?なんか………
「お前の手ってこんな大きかったっけ?」
触れた男鹿の手を改めて見ると自分が思っていたよりずっと大きく、ゴツゴツと骨張っていて固く、男を感じさせる。
俺より一回りほど大きいその手に少しだけ脈拍が上がった気がした。
男鹿の手をまじまじと眺めている古市を横目にジャンプを開いたまま床に置いた。
「古市のはちっせーし白いな」
「うっせーな。白いのはどうしようもねーだろが」
今度は男鹿の方から手を触れさせて古市の手を観察し始めた。
互いに手を握り合う状況に男鹿はどうか知らないが、少なくとも古市は若干の喜びを感じている。
いつの間にか恋人らしいことをしている自分達に感動すら覚えた。
今なら、言える…………!
「男鹿!」
「あ?」
畏まるように男鹿を呼ぶ古市に小首を傾げた。
じっと見つめてくる黒い瞳に生唾を飲み込む。
言わないと、早く……
「…き…き………きっ……」
「?」
「…きっ………今日は良い天気だったよなあ!」
「はあ?」
……………しくったあああああああああああああ!!!!!
間違えちまった!!!!いやよりによって今日の天気ってなんだよ!!!
ベタすぎだろ!!!つか何?なんで?なんでこんな………恥ずかしいんだ?
分かんねー……『キスしたい』って言うだけだろ?
心臓が痛い、脈が速すぎて怖い。わけ、わかんねぇ……んだよこれ……
「古市?」
「ぁ…………」
急に黙り込んでしまった古市を不審に思い、顔を覗いてくる男鹿にさらに鼓動が速くなる。
見ていられなくて思わず視線を反らした。
だが、掴んでいた手を男鹿が掴み直し、手前に少し引いたため視線は再び戻る。
「顔赤ぇ」
「なん……っ」
「ぷっ、茹でダコみてー」
「だっ、誰がタコだコラァ!」
「お前以外誰がいんだよ」
ケタケタと笑う男鹿に内心ほっとする反面、どうしようもないくらい胸がざわつく。
全身に鳥肌が立ちそうな程昂る気持ちに戸惑う。
いや違う、俺は知ってる。この感覚は告白する時にもあった。
この三ヶ月何も無さすぎてこういう気持ちを忘れていたっていうのが大きいけど、これは確かに三ヶ月前あった。
好き過ぎてよく分からなくなる、この感覚に純粋に溺れてたんだ。
「男鹿……」
「?」
「あ、……ぅ……うー……」
「何だよ、今日なんか変だぞ古市」
んなこたぁ俺が一番分かってんだよおおおおおおお!!!!
つか何でお前はこんな風に触り合ってて何もねーの!?
もっと意識とかしろよ!!何でこんな俺だけ……!
顔が熱い、辛い、苦しい。付き合ってるのにこんな状態になっても抱き付くことが出来ない。
俺達何で付き合ってんだよ……やべ……泣きそう。
眉を八の字に垂らして情けない顔で見つめてくる古市の頭を何となく撫でる男鹿にキョトンとする。
「…………男鹿?」
「いーから、大人しくしとけ」
「ちょ…………、っ!」
男鹿に、抱き締められてる。何故か分からないが抱き締められてる。
強くはないが背に腕を回され、確かにそうされている。
なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ!!!!
ぶわわっと顔が赤くなるのが自分でも分かる程に火照る、というよりも湯気が出るレベルだ。
いや、絶対出てる!!
「おっおおお男鹿っ?いきなり何すっ……う、わ」
首筋に鼻を埋められクン、と匂いを嗅がれる。訳が分からない、死ぬ。
何か熱いものが込み上げてぞくぞくと体の節々が震える。
色んな意味で耐えきれなくなった古市は、はぁっ、と息を洩らした。
それは熱を含んだ甘い吐息にも似ている。駄目だ、我慢出来ない。
「男鹿………」
今度は自分から腕を回し抱き付きながら男鹿の肩口に顔を擦り寄せた。
男鹿の匂いが感触が体温が、服越しに古市を包み古市を焦がせる。
世間の恋人同士ってのはお家デートとやらで始終こんなことをしているんだろうか。
甘い………甘すぎる。
こんな居たたまれないような甘しょっぱい気持ちになるくらいなら、やっぱり今まで通りのが良かったかもしれない。
暫くすると男鹿の方から古市を離した。
「喉乾いたから何か持ってくるわ」
「お、おう」
いつも通り変わらずぶっきらぼうな男鹿の態度に対し古市はどう対応すればいいか分からない。
階段を降りていった男鹿を尻目に深い溜め息を吐く。
いつもって男鹿とどんな会話してたっけ?男鹿が帰ってきたらどうすんの?
笑えばいいのか?真顔で迎え入れればいいのか?
「わっかんねー!!」
頭をガシガシと乱暴に掻きながら男鹿のベッドに上がり仰向けに寝転んだ。
なんせ恋人になってから抱き締め合ったのはこれが初めてで、あんな風に……に、匂いを嗅がれたのだって勿論初めてだ。
むしろ友達だった時の方がスキンシップは多かったと思う。
あの頃は単純に友達としての触れ合いに少しの下心があるくらいで、過度な期待はしなかった。
けど今は違う。恋人同士なんだ。下心だってバリバリあるし触りたいとか思うし好きって言いたい。
でも友達期間が長すぎて何をするにしても気恥ずかしさが付きまとうから動けない。
「『キスしたい』とか言えるわけねぇじゃん………」
肘を閉じた瞼の上に重なるように、赤い顔が少しでも隠れるように置く。
それから少ししてコップの中の氷をカランと鳴らしながら男鹿が帰ってきた。
一瞬起きようかと思ったが今起きたとして、男鹿とまともな会話が出来るかと言えば答えはNOであるため、そのまま動かないことにした。
「………寝てやがる」
「…………」
「古市ー、マジで寝てんの?」
「…………………」
わざと正しい呼吸音を聞かせてやれば男鹿は騙されてくれたのか、古市の側に腰掛け頭を撫で始める。
優しいその手付きの心地好さに本当に寝てしまいそうだ。
古市のそんな気持ちは知らずに男鹿は今度は輪郭に手を滑らせた。
さすがの古市もこれには少し動揺するが表に出ないように落ち着かせる。
「相変わらず女子みてーな肌してんな。いや、古市のがキレイか」
は?は?は?
何言ってんのこいつ。
「………我慢出来なくなるとこだったろ、アホ古市」
頭をぺしんと叩かれ殴り返したくなったけど、男鹿の言葉に思い留まる。
我慢って………何を?お前は何を我慢してんだ?
「…………なぁ」
「……………」
ギシ、と古市の顔の真横でベッドが鳴る。
ベッドが沈んでることから多分、手を付かれている。
その光景を想像するにどう見ても押し倒しているような状態にしかならない。
いや、付いているのは片手だけだから座りながら体を捩って覆い被さる形だろう。
何のために?
自分の状況を冷静に分析していたが、男鹿によって思考回路はぶった切られた。
「古市」
いつもよりずっと甘い声。そして唇に触れた柔らかい感触。
啄むように何度も重ねられて生温い体温が口から伝染してくる。
それが何か分からないほど古市は馬鹿じゃない。
バチッと目を開くと男鹿と至近距離で目が合う。
「なっ………!」
「おまっ!起きてんじゃねぇか!」
急に目を開けた古市に驚いた男鹿は直ぐに離れたが、思っていた以上に近かった顔に声にならない声が洩れる。
「い、ぁ…………う、あっ、えっ?」
「古市、何も伝わってねーかんな……」
「いっいいい今っ………した?」
「した」
「まじ、で………」
耳まで赤く染め上げるどころか、腕まで赤い。
キス、ほんとにしたんだ……顔熱い……顔見れない。
触れた唇を手で押さえながら視線は泳いだままの古市の顔を男鹿は覗き込む。
「近いって……」
「さっきのが近かっただろ」
「ばっ……言うな!バカ!」
「……………そんな慌てなくても初めてじゃねーつの」
「お前が初めてじゃなくても俺は初めてだっつの!!」
つかお前キスしたことあったのかよ!!ふざけんなばかやろおおおお!!
男鹿の初めてが俺じゃないからって別にショック受けてるわけじゃねーけど!!!
涙目で訴えると男鹿は呆れたように息を吐き、古市の後頭部に手を回して引き寄せると再度口付けた。
「ぅ、む………なにすっ…」
「何ってキスだろ。つーか古市初めてじゃねーぞ」
「はあ?」
「古市はキスしたことあっから安心しろ」
「いっいつ!?誰と!?」
「古市が寝てる時に俺と」
「はあああああ!!??」
はっ?はっ?言葉の意味が全く分からん!!
俺はキスしたことあってその相手が男鹿!?寝てる時ってなんだよ!!
お前のその無駄な行動力は俺が起きてるときにしろよ!!
「…つーかマジで何で寝てる時………」
呆れ顔で男鹿を睨むと当の本人は特に悪気も無さげに答えた。
「んなもんお前が女が好きだって言うからだろ」
「は?」
「前からキスは可愛い彼女とするんだっつってただろ」
「…………………」
言葉がかなり足りないが要約すると、俺が可愛い彼女とキスしたいって言ってたから、キスしたら怒られると思って起きてるときにはしなかった、ってことか?
ついでに言えばただの触れ合いとかもそういう理由でしなかったってことになるのか?
お前の思考回路分かりにくいんだよ!
古市も長年男鹿と一緒に居ただけあって大分言葉の読み取り能力が鍛えられているため、正しくその通りの答えだった。
「あのさ……それって男鹿と付き合う前の話じゃん…?女好きの俺でもさすがに付き合ってる奴とキスしたいに決まってるだろ…」
「……………マジでか」
「……マジだ」
お前はマジで俺を何だと思ってんだよ。しまいには殴るぞ。
男鹿は古市の言葉にわずかに表情が弛み、安心したように抱き着いた。
「てことは古市は俺とキスしてーってことか?」
「う……まぁ、そうなる……かな?」
「………我慢しなくていいんだな?」
「……あぁ」
「触っても、いいんだな?」
「……お、おう」
触るって………どこまでですか男鹿さん……
でもまぁ、これでちょっとは恋人らしくなれる、か?
今まで俺だけ損してきた分、きっちり返してもらうからな?
それに、今まで我慢してきたのはお前だけじゃなくて俺もだ。
今度こそちゃんと俺とお前の合意でしたい。
それが俺等の正真正銘ファーストキスだ。
そんでそれから先は二人で一緒に照れながらでも進んでいきたい。
だからまずは……
「キス、しようぜ?」
男鹿はふわっと笑ったかと思うと静かに唇を重ねてきた。
触れた体温は温かった。
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初々しいおがふる。付き合いたてで主に古市が初々しいのが大好きです!
おがふるは付き合った後より付き合う前のがイチャイチャしてそう。
付き合った後は古市が意識し過ぎて普通のスキンシップも危ぶまれるよ!
今回のはピュアっピュアの高校生カップルを目指したが何かよく分からんくなった(笑)
でもやっぱりおがふるは可愛いです大好き!!
久々の甘いおがふるいかがだったでしょうか?
これからも頑張りますね^^
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