※バブ207話のネタバレ&その後捏造
※付き合ってないおがふる
※男鹿→→→→←←←←古市
「………………………」
(あぁ、こんな死にそうな時に思い出すのはお前とした約束なんだな)
いきなり押し掛けてきた男鹿を適当にもてなしながら、古市は雑誌を開いた。
「古市、お前も狙われてんだから気ぃ付けろよ」
「…分かってるっつの」
全く………石矢魔に帰ってきてから何回目だよ。あのティッシュ事件以来、男鹿は俺のことに関してかなり敏感になってる。
男鹿は思ったこと考えたことを言葉にしない。面倒くさいのとか恥ずかしいのとか色々あるんだろう。
だからあの事件で初めて男鹿の俺に対するすげぇ恥ずかしい認識を知った。
『お前はそんなんなくても強ぇだろ』とか……よく言えたな。
そういうトコを格好良いって思っちまった俺もたいがい恥ずかしい奴かもしれないけど。
雑誌をパラパラ捲りながらベッドに転んだまま受け答えしていると、男鹿に雑誌を奪われた。
「一人になるなって姫川に言う前にお前が気ぃ付けろよ」
「はいはい」
「………今日も先に一人で帰っといて、ほんとに分かってんのか?あ?」
…………もしかして俺が一人で帰ったから心配して家まで来たのか?
あのアバレオーガが?いやに説教たれてると思ったら………コイツはどんだけ俺が好きなんだか。
もうダチは俺だけじゃねーだろうに。
「分かってるって!大体もし何かあったとしても男鹿が何とかしてくれんだろ?」
笑う古市は男鹿がどんな気持ちで真面目に話をしているのか分かっていない。
男鹿の中で自分がどれだけ大きな存在となってそこに居るのか、本当の意味での理解をしていないのだ。
鋭い三白眼の瞳孔が開かれた瞬間、古市はしまったと察知するが遅かった。
「…っ…………お、が」
「………………」
ギシッと二人分の体重を支えて軋むベッドの音が静かな部屋に響く。
顔の両側につかれている腕と足の間に体を挟まれているせいで身動きが出来ない。
否、男鹿の鋭すぎる眼のせいで体が動かないのだ。
男に押し倒されても何も嬉しくねーんだけど、とかそんな言葉は出てこない。
怖い、それしかなかった。何処が男鹿の地雷だったかなんてどうでもいい。
男鹿が怒ってる。その事実だけが頭の中を駆け巡る。
「なぁ……マジでそう思ってんのか。俺が何とかするって?そうだな、確かに今までならそれでいいと思ってた」
「………………お、」
「けどよ、実際何かあった後でしたんじゃ意味ねーだろ」
「それは…………ヒルダさんが記憶無くした時のことを言ってんのか」
「……………それもだけどよ」
男鹿は目を細めて古市を一度見つめると肘を折り、手首にかけて顔の両側に下ろした。
二人の距離が格段に近くなる。だが古市はそれに対して文句を言うでもなくただ男鹿を見つめ返す。
そうして何秒か経つと男鹿は視線を反らし、古市の顔の真横に顔を埋めた。
体はほぼ密着している。言葉を待っていると漸く唸るように低い声を出した。
「今まで………俺が後から駆けつけて無傷だったことが一度でもあったか」
「………………覚えて、ない」
あぁ、そうか。
そういうことなのか。
男鹿はずっと……
「ねぇよ、お前が無傷だったことなんか。ひでぇ怪我ばっか」
「それは別に……男鹿のせいじゃねーじゃん。逃げ切れなかった俺が悪ぃだろ」
「…俺のせいで古市は……」
その先は言わせたくない。
お前には言われたくない。
咄嗟に男鹿を抱き締めていた。
華奢じゃない、硬くて厳つい男の体に腕を回しても気持ち悪くはない。
驚きで口を止めた男鹿から腕を離し今度は頭を優しく撫でて抱き締めた。
「もし、俺がお前とダチになったせいで怪我してるからダチにならなきゃ良かった、とか言いいたいんなら許さねぇぞ。俺は文句ばっか言ってっけど、後悔したことはねーよ」
俺と男鹿の5年間をそんな風に思うな。
確かに馬鹿しかやってねぇけどそれでも俺は、俺にとっては意味のある時間だ。
友達なんか何人もいた。けど、信頼出来る本当のダチは初めてだった。
「男鹿の最初のダチが俺なように、俺の最初のダチはお前だ。それはこれからも変わらねーよ」
男鹿を落ち着かせるような声色に不思議と怒りは収まってくる。
おそらく現時点で男鹿の制御機能と成りうるのは古市だけであり、古市自身それを自覚している。
初めは自意識過剰かもしれないと思っていたが、確信したのは最近だ。
「……俺は今更古市から離れられねぇし、ダチだと思ってる。だから、俺はもう巻き込みたくねぇ」
「今まで散々巻き込んどいてそれこそ今更だろ」
「今回は今までと違ぇ。悪魔絡みっつっても強さが桁違いだ。死ぬかもしれねぇぞ」
「…………!」
男鹿が、弱気だ。
いつもなら……いつもの男鹿なら『俺が全員まとめてめり込ませばいーんだろ』って声高に宣言するのに。
相手の強さを気にしたことなんかなかったはずだ。それなのに男鹿は今、敵を倒せなかった時を少なからず想像している。
己が勝つのが当たり前だと思っていた男が、最悪負けた時のことを考えている。
視野が広がったとかそういうのじゃない。
これは……
古市は力を込めて男鹿の体を押し返し、体を起こすと真剣に向き直った。
「俺はお前の弱点になってるか」
「!」
「今まで俺を人質に取られてもそんなの関係なしに喧嘩してたよな?」
喧嘩の最中俺が殴られたとしても下手に庇ったりとかはあまりなくて、ただ殴り返してくれていた。
男鹿の喧嘩に巻き込まれて殴られるのは一緒にいたら当たり前だし、自業自得だ。
さすがに拐われた時は怒って相手が俺に危害加える間もなくボコしてくれた。
けどもし今。
「もし今、俺が人質に取られたとして………男鹿は俺を庇うか?」
「……………」
「……姫川は俺が男鹿の知り合い中で唯一人質の価値があるもんだと思ってるはずだ。だから多分姫川は十中八九、俺を狙う」
「……………そうかよ」
「その時もし鷹宮と戦うことになったら、絶対俺を庇うような戦い方はするな」
「……自惚れんな古市。俺は庇ったりしねぇ。お前は俺の後ろじゃねーだろ」
古市の後頭部に手を回し、引き寄せるとそのまま額同士をくっ付けた。
「古市は俺の横に居るんだろ」
「…………あぁ、そうだな」
良かった、元に戻った。
いつもの男鹿だ。
古市は男鹿の隣に座り直すといつものように笑って言った。
「悪魔絡みつってもさすがに死なねぇよ。俺が結構タフなの知ってるだろ?」
「古市がゴキブリみてーにしぶてぇのは知ってってけど……マジで死ぬなよ」
「ゴキブリとか言うなよ……。まぁ俺が居ないとお前、考えなしだし……心配で死ねねーよ」
そうだ、心配なんだ。俺が死んだら男鹿はどうなるんだ?
俺のために怒るのか、泣くのか、はたまた両方か。
どれにしてもあまり体験させたいものではない。
男鹿のダチとしてバカみたいなことをこれからも楽しませてやりたい。
だからこそ、俺は死ねない。
「約束する。俺はこれからもずっと男鹿の隣に居る。だから死なない」
そう『約束』すると男鹿は心底嬉しそうに笑うから、俺もつられて笑った。
「古市…!!ふるいちっ…!…う、ああ、アァっあ……!あああっあ!!!!」
「…………………………」
遠くで俺を呼ぶ声がする。
天国からの使者か…………いや、違うこの声は…………魔王の親、だ。
俺を呼んでる。呼びながら戦ってる。
死ぬなと叫んで、泣いて、喚いて、男鹿らしくないのにどこか嬉しい自分がいる。
でも駄目だ、このままじゃ男鹿は壊れてしまう。
そうだ、俺はこんな場所で死んじゃいけない。俺はまだ生きるんだ。
無くなった心臓の部位にはもはや痛みなんてない…………が、不思議だ、心臓がないのに何故か意識はある。
どうしてだ?何かに問い掛けると答えはすんなりと返ってきた。
(貴様はまだ私と契約している状況にあるからだ)
この脳に直接送り込まれる声は…………
(ヘカドスさん…………?どうして………消えたんじゃ…)
(私は契約が切れるまで離れられない。残念なことにな。貴様にとっては幸いに、私と繋がっているからギリギリ生かされている状況だ)
(じゃあ、あんたが消えたら俺も死ぬってことか)
(そうなるな)
ヘカドスに心の声が聞こえて良かった。
自分の口からは何の音も出ずに掠れた空気が喉を通っているだけだ。
声が出るなら男鹿に何か言えたのに………いや、今の男鹿に何を伝えるというんだ。
謝罪の言葉?今までの感謝?あいつからしたら全部クソくらえだろ。
そもそもこんな状況で男鹿が俺の話を冷静に聞けるとも思えないし、下手なことを言うと殴られそうだ。
だから、俺は選ぶ。
生か、死か。
(どうすれば、死なずに済みますか)
強い心の声にヘカドスは僅かに目を細めた。こいつは自分が助かりたいから言ってるんじゃない。
古市から溢れている感情を直接受けとるヘカドスは目の前の少年を気味悪く思った。
何故なら普通『死にたくない』のは自分のためだからそう思うのであって、今までそういう者しか見たことが無かったからだ。
なのにこいつは違う。
(それは………男鹿のため、か)
(……………俺はただ、俺のためにあんな風に壊れていく男鹿を見たくない。止めたい……いや、俺しか止められない)
現在進行形で紋が体中に広がっているのが視界に入る。
最悪、悪魔堕ちになる可能性は低くない。むしろ高いんじゃないのか。
それぐらい見て分かる程に男鹿の精神状態は崩壊寸前………時間がない。
早くしないと取り返しがつかなくなる。男鹿とべる坊を任せてくれたヒルダさんにも顔向け出来ねぇ。
(俺が死んだらあいつは本当に駄目になる。人じゃなくなる……)
(……結局、男鹿のためか)
(俺のエゴには変わりありません)
俺が居なくなったら男鹿の横に立つ奴が居なくなる。
そうしたら男鹿はこれから一体誰とバカみたいに騒いで笑って生きて行くんだ?
きっともう男鹿は誰も隣に立たせようとしない。
俺が男鹿の人生の一端を握ってるなんておかしな話だけど、それでもそれは事実だ。
そしてここからが俺のエゴ。
(男鹿の隣に立つのが俺以外になるかもしれないってのが、一番嫌なんです)
(…………いいな、その感情。そこら辺の悪魔が好みそうだ)
(………俺の心臓はもう持っていかれたけど、他は全部あげます。だから正式に契約を…………俺は生きなきゃいけないんだ)
これほどまで『生きたい』という強い意志を持った人間に今まで会ったことがあるだろうか。
しかもたかだかそこら辺にいくらでも転がっている『友達』とやらのために。
人間の心は悪魔には分からん。考えるだけ無意味か。
ヘカドスは古市の空いた胸に手をかざす。
(正式に契約すれば私の魔力によって生かされるが、貴様の意志はほとんど残らなくなる。体の状態が状態なだけにな。まぁどれだけ意志が残るかは貴様の精神力しだいだがな)
それでもするのか?、と問い掛けるのも野暮かもしれないがそれが契約する際の形式のようなものだ。
もうすでに言葉によらない意志疎通しか出来ないはずなのに、古市の口元が僅かに笑う。
そして、静かに色素の薄い綺麗な瞳から透明な涙が流れた。
本当は怖い。自分の意志がないまま体を悪魔に預けるなんて怖いに決まってる。
体が生きていても男鹿と今までのように話すことも、笑うことも、喧嘩することも出来なくなるかもしれない。
そんなの本当は堪えられない、辛い。だけど、仕方ないだろ……俺にはこれしかないんだから。
だって俺は
(男鹿と『約束』したから)
(……『約束』のために生きるか……)
生きるのも死ぬのも、男鹿と一緒じゃなきゃ嫌なんだ。
それに俺が死ねば男鹿は後悔する、俺と出会ったことに、俺を巻き込んでしまったことに。
俺は男鹿に後悔して欲しくない。後悔したらもう男鹿は大切な仲間を作ることを放棄するし、そんなのは嫌だ。
俺は何でもないように人に囲まれて仏頂面下げてる男鹿が、一番好きなんだ。
俺の意志は無くなってもきっと思い出すから。心まで売り飛ばすわけじゃない。
俺の心臓(ココロ)はもうとっくに君に丸ごと全部渡してる。
だから君が意識の海に沈んだ俺を引っ張り上げて。
俺のために糸を垂らしてくれるならそれに死んでもしがみついてやるから。
俺のために叫んでくれるなら喉が焼き切れても君に届くように叫び返すから。
だからいつか君を便りに取り戻してみせる。
「……………ご、…め……な?…………お…、…が……」
(ずっと、好きだったよ)
「………!」
鷹宮をぶっ飛ばしていると古市が倒れていたはずの背後から異様な空気を感じた。
まさか、と半狂乱のまま振り返る。だってそんなはずはない、古市は心臓を取り出されて死んだはずだろ。
息は確かめなかったがそんなの恐ろしくて出来なかった。
なのに、胸に穴を空けたまま古市はそこに立っていた。そんな馬鹿なことがあるか、と思うのに。
「………古市?なん、で」
「あー………なんかヘカドスとのティッシュの契約が切れてなかったお陰…………で一応生きてるみてぇ」
そういつものようにへらりと笑う古市。
の、胸ぐらを瞳孔を大きく開きながら男鹿は掴み上げた。
「てめぇ…………誰だ」
「……ほう、さすがだな男鹿辰巳。だがこんなことをしていいのか?これは古市の体だぞ」
「……!」
古市の体、そう言われた瞬間腕から力が抜けた。
古市、は何処だ?視界が揺れる、分からない。何も考えたくない古市が居ない怖い。
古市が居ない世界に意味なんてあるのか?ないだろ。じゃあ俺はこれから何の意味があって生きるんだ。
意味なんて何もないのに?生きるのか俺は。
「落ち着け男鹿!古市は消えてない!私と契約し、私の中で生きている。まだ望みはある」
「……………契約?」
「死ねないのだと言っていた。だから生きるために私と契約した」
「なん、で」
一種のパニック状態になっている男鹿にゆっくりと古市の声で話す。
「『約束』したから、と」
「…『約束』……」
俺は絶対に死なないと笑って言った古市が脳裏に蘇る。
死ぬ時は一緒だと言われたあの時、どれだけ嬉しかったか古市には分からなかっただろう。
その言葉にどれだけ救われたか。古市には貰ってばかりいた俺に今出来ることは何だ?
俺はどうすれば古市を取り戻せる。
「貴様のために契約した古市は言っていた。『俺の心臓(ココロ)はとっくに男鹿に渡してる。だからお前が俺を呼び戻せ。お前の声ならきっと届くから』と」
「……………そうか」
分かった、古市。
俺は絶対にお前を取り戻す。
悪魔にも誰にも渡さない。
「俺はどうすりゃいい」
「とにかく古市の心臓を取り戻せ。そうすればわざわざ契約して生きる意味もなくなる。まぁ、契約印は残るがな」
「んなもん後から俺が古市と契約すりゃいい話だ」
「…………しくじるなよ」
「てめぇこそ古市にそれ以上怪我させんなよ」
鷹宮をぶっ飛ばして、心臓取り戻して古市が帰ってきたら一発殴る。
そんで殴られて怒る古市を抱き締めて絶対一言伝えるまで離さねぇ。
俺はまだ伝えてねぇから。
この世で一番お前が好きだって。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私の中の男鹿と古市を詰め込んだ話です。
限りなく好き合ってる男鹿と古市だけど、付き合ってないおがふる。両片想い万歳。
今更207捏造とか・・・208見てないのでセーフだと言い張る。
208がこうだったらいいのに、という願望100%。
とにかく私の中のおがふるはこうなってます。
友達以上の気持ちにお互い自覚してるかどうか分かりませんけど(笑)
多分してるはず・・・・つか古市は男鹿を想いすぎだろう・・・
※付き合ってないおがふる
※男鹿→→→→←←←←古市
「………………………」
(あぁ、こんな死にそうな時に思い出すのはお前とした約束なんだな)
いきなり押し掛けてきた男鹿を適当にもてなしながら、古市は雑誌を開いた。
「古市、お前も狙われてんだから気ぃ付けろよ」
「…分かってるっつの」
全く………石矢魔に帰ってきてから何回目だよ。あのティッシュ事件以来、男鹿は俺のことに関してかなり敏感になってる。
男鹿は思ったこと考えたことを言葉にしない。面倒くさいのとか恥ずかしいのとか色々あるんだろう。
だからあの事件で初めて男鹿の俺に対するすげぇ恥ずかしい認識を知った。
『お前はそんなんなくても強ぇだろ』とか……よく言えたな。
そういうトコを格好良いって思っちまった俺もたいがい恥ずかしい奴かもしれないけど。
雑誌をパラパラ捲りながらベッドに転んだまま受け答えしていると、男鹿に雑誌を奪われた。
「一人になるなって姫川に言う前にお前が気ぃ付けろよ」
「はいはい」
「………今日も先に一人で帰っといて、ほんとに分かってんのか?あ?」
…………もしかして俺が一人で帰ったから心配して家まで来たのか?
あのアバレオーガが?いやに説教たれてると思ったら………コイツはどんだけ俺が好きなんだか。
もうダチは俺だけじゃねーだろうに。
「分かってるって!大体もし何かあったとしても男鹿が何とかしてくれんだろ?」
笑う古市は男鹿がどんな気持ちで真面目に話をしているのか分かっていない。
男鹿の中で自分がどれだけ大きな存在となってそこに居るのか、本当の意味での理解をしていないのだ。
鋭い三白眼の瞳孔が開かれた瞬間、古市はしまったと察知するが遅かった。
「…っ…………お、が」
「………………」
ギシッと二人分の体重を支えて軋むベッドの音が静かな部屋に響く。
顔の両側につかれている腕と足の間に体を挟まれているせいで身動きが出来ない。
否、男鹿の鋭すぎる眼のせいで体が動かないのだ。
男に押し倒されても何も嬉しくねーんだけど、とかそんな言葉は出てこない。
怖い、それしかなかった。何処が男鹿の地雷だったかなんてどうでもいい。
男鹿が怒ってる。その事実だけが頭の中を駆け巡る。
「なぁ……マジでそう思ってんのか。俺が何とかするって?そうだな、確かに今までならそれでいいと思ってた」
「………………お、」
「けどよ、実際何かあった後でしたんじゃ意味ねーだろ」
「それは…………ヒルダさんが記憶無くした時のことを言ってんのか」
「……………それもだけどよ」
男鹿は目を細めて古市を一度見つめると肘を折り、手首にかけて顔の両側に下ろした。
二人の距離が格段に近くなる。だが古市はそれに対して文句を言うでもなくただ男鹿を見つめ返す。
そうして何秒か経つと男鹿は視線を反らし、古市の顔の真横に顔を埋めた。
体はほぼ密着している。言葉を待っていると漸く唸るように低い声を出した。
「今まで………俺が後から駆けつけて無傷だったことが一度でもあったか」
「………………覚えて、ない」
あぁ、そうか。
そういうことなのか。
男鹿はずっと……
「ねぇよ、お前が無傷だったことなんか。ひでぇ怪我ばっか」
「それは別に……男鹿のせいじゃねーじゃん。逃げ切れなかった俺が悪ぃだろ」
「…俺のせいで古市は……」
その先は言わせたくない。
お前には言われたくない。
咄嗟に男鹿を抱き締めていた。
華奢じゃない、硬くて厳つい男の体に腕を回しても気持ち悪くはない。
驚きで口を止めた男鹿から腕を離し今度は頭を優しく撫でて抱き締めた。
「もし、俺がお前とダチになったせいで怪我してるからダチにならなきゃ良かった、とか言いいたいんなら許さねぇぞ。俺は文句ばっか言ってっけど、後悔したことはねーよ」
俺と男鹿の5年間をそんな風に思うな。
確かに馬鹿しかやってねぇけどそれでも俺は、俺にとっては意味のある時間だ。
友達なんか何人もいた。けど、信頼出来る本当のダチは初めてだった。
「男鹿の最初のダチが俺なように、俺の最初のダチはお前だ。それはこれからも変わらねーよ」
男鹿を落ち着かせるような声色に不思議と怒りは収まってくる。
おそらく現時点で男鹿の制御機能と成りうるのは古市だけであり、古市自身それを自覚している。
初めは自意識過剰かもしれないと思っていたが、確信したのは最近だ。
「……俺は今更古市から離れられねぇし、ダチだと思ってる。だから、俺はもう巻き込みたくねぇ」
「今まで散々巻き込んどいてそれこそ今更だろ」
「今回は今までと違ぇ。悪魔絡みっつっても強さが桁違いだ。死ぬかもしれねぇぞ」
「…………!」
男鹿が、弱気だ。
いつもなら……いつもの男鹿なら『俺が全員まとめてめり込ませばいーんだろ』って声高に宣言するのに。
相手の強さを気にしたことなんかなかったはずだ。それなのに男鹿は今、敵を倒せなかった時を少なからず想像している。
己が勝つのが当たり前だと思っていた男が、最悪負けた時のことを考えている。
視野が広がったとかそういうのじゃない。
これは……
古市は力を込めて男鹿の体を押し返し、体を起こすと真剣に向き直った。
「俺はお前の弱点になってるか」
「!」
「今まで俺を人質に取られてもそんなの関係なしに喧嘩してたよな?」
喧嘩の最中俺が殴られたとしても下手に庇ったりとかはあまりなくて、ただ殴り返してくれていた。
男鹿の喧嘩に巻き込まれて殴られるのは一緒にいたら当たり前だし、自業自得だ。
さすがに拐われた時は怒って相手が俺に危害加える間もなくボコしてくれた。
けどもし今。
「もし今、俺が人質に取られたとして………男鹿は俺を庇うか?」
「……………」
「……姫川は俺が男鹿の知り合い中で唯一人質の価値があるもんだと思ってるはずだ。だから多分姫川は十中八九、俺を狙う」
「……………そうかよ」
「その時もし鷹宮と戦うことになったら、絶対俺を庇うような戦い方はするな」
「……自惚れんな古市。俺は庇ったりしねぇ。お前は俺の後ろじゃねーだろ」
古市の後頭部に手を回し、引き寄せるとそのまま額同士をくっ付けた。
「古市は俺の横に居るんだろ」
「…………あぁ、そうだな」
良かった、元に戻った。
いつもの男鹿だ。
古市は男鹿の隣に座り直すといつものように笑って言った。
「悪魔絡みつってもさすがに死なねぇよ。俺が結構タフなの知ってるだろ?」
「古市がゴキブリみてーにしぶてぇのは知ってってけど……マジで死ぬなよ」
「ゴキブリとか言うなよ……。まぁ俺が居ないとお前、考えなしだし……心配で死ねねーよ」
そうだ、心配なんだ。俺が死んだら男鹿はどうなるんだ?
俺のために怒るのか、泣くのか、はたまた両方か。
どれにしてもあまり体験させたいものではない。
男鹿のダチとしてバカみたいなことをこれからも楽しませてやりたい。
だからこそ、俺は死ねない。
「約束する。俺はこれからもずっと男鹿の隣に居る。だから死なない」
そう『約束』すると男鹿は心底嬉しそうに笑うから、俺もつられて笑った。
「古市…!!ふるいちっ…!…う、ああ、アァっあ……!あああっあ!!!!」
「…………………………」
遠くで俺を呼ぶ声がする。
天国からの使者か…………いや、違うこの声は…………魔王の親、だ。
俺を呼んでる。呼びながら戦ってる。
死ぬなと叫んで、泣いて、喚いて、男鹿らしくないのにどこか嬉しい自分がいる。
でも駄目だ、このままじゃ男鹿は壊れてしまう。
そうだ、俺はこんな場所で死んじゃいけない。俺はまだ生きるんだ。
無くなった心臓の部位にはもはや痛みなんてない…………が、不思議だ、心臓がないのに何故か意識はある。
どうしてだ?何かに問い掛けると答えはすんなりと返ってきた。
(貴様はまだ私と契約している状況にあるからだ)
この脳に直接送り込まれる声は…………
(ヘカドスさん…………?どうして………消えたんじゃ…)
(私は契約が切れるまで離れられない。残念なことにな。貴様にとっては幸いに、私と繋がっているからギリギリ生かされている状況だ)
(じゃあ、あんたが消えたら俺も死ぬってことか)
(そうなるな)
ヘカドスに心の声が聞こえて良かった。
自分の口からは何の音も出ずに掠れた空気が喉を通っているだけだ。
声が出るなら男鹿に何か言えたのに………いや、今の男鹿に何を伝えるというんだ。
謝罪の言葉?今までの感謝?あいつからしたら全部クソくらえだろ。
そもそもこんな状況で男鹿が俺の話を冷静に聞けるとも思えないし、下手なことを言うと殴られそうだ。
だから、俺は選ぶ。
生か、死か。
(どうすれば、死なずに済みますか)
強い心の声にヘカドスは僅かに目を細めた。こいつは自分が助かりたいから言ってるんじゃない。
古市から溢れている感情を直接受けとるヘカドスは目の前の少年を気味悪く思った。
何故なら普通『死にたくない』のは自分のためだからそう思うのであって、今までそういう者しか見たことが無かったからだ。
なのにこいつは違う。
(それは………男鹿のため、か)
(……………俺はただ、俺のためにあんな風に壊れていく男鹿を見たくない。止めたい……いや、俺しか止められない)
現在進行形で紋が体中に広がっているのが視界に入る。
最悪、悪魔堕ちになる可能性は低くない。むしろ高いんじゃないのか。
それぐらい見て分かる程に男鹿の精神状態は崩壊寸前………時間がない。
早くしないと取り返しがつかなくなる。男鹿とべる坊を任せてくれたヒルダさんにも顔向け出来ねぇ。
(俺が死んだらあいつは本当に駄目になる。人じゃなくなる……)
(……結局、男鹿のためか)
(俺のエゴには変わりありません)
俺が居なくなったら男鹿の横に立つ奴が居なくなる。
そうしたら男鹿はこれから一体誰とバカみたいに騒いで笑って生きて行くんだ?
きっともう男鹿は誰も隣に立たせようとしない。
俺が男鹿の人生の一端を握ってるなんておかしな話だけど、それでもそれは事実だ。
そしてここからが俺のエゴ。
(男鹿の隣に立つのが俺以外になるかもしれないってのが、一番嫌なんです)
(…………いいな、その感情。そこら辺の悪魔が好みそうだ)
(………俺の心臓はもう持っていかれたけど、他は全部あげます。だから正式に契約を…………俺は生きなきゃいけないんだ)
これほどまで『生きたい』という強い意志を持った人間に今まで会ったことがあるだろうか。
しかもたかだかそこら辺にいくらでも転がっている『友達』とやらのために。
人間の心は悪魔には分からん。考えるだけ無意味か。
ヘカドスは古市の空いた胸に手をかざす。
(正式に契約すれば私の魔力によって生かされるが、貴様の意志はほとんど残らなくなる。体の状態が状態なだけにな。まぁどれだけ意志が残るかは貴様の精神力しだいだがな)
それでもするのか?、と問い掛けるのも野暮かもしれないがそれが契約する際の形式のようなものだ。
もうすでに言葉によらない意志疎通しか出来ないはずなのに、古市の口元が僅かに笑う。
そして、静かに色素の薄い綺麗な瞳から透明な涙が流れた。
本当は怖い。自分の意志がないまま体を悪魔に預けるなんて怖いに決まってる。
体が生きていても男鹿と今までのように話すことも、笑うことも、喧嘩することも出来なくなるかもしれない。
そんなの本当は堪えられない、辛い。だけど、仕方ないだろ……俺にはこれしかないんだから。
だって俺は
(男鹿と『約束』したから)
(……『約束』のために生きるか……)
生きるのも死ぬのも、男鹿と一緒じゃなきゃ嫌なんだ。
それに俺が死ねば男鹿は後悔する、俺と出会ったことに、俺を巻き込んでしまったことに。
俺は男鹿に後悔して欲しくない。後悔したらもう男鹿は大切な仲間を作ることを放棄するし、そんなのは嫌だ。
俺は何でもないように人に囲まれて仏頂面下げてる男鹿が、一番好きなんだ。
俺の意志は無くなってもきっと思い出すから。心まで売り飛ばすわけじゃない。
俺の心臓(ココロ)はもうとっくに君に丸ごと全部渡してる。
だから君が意識の海に沈んだ俺を引っ張り上げて。
俺のために糸を垂らしてくれるならそれに死んでもしがみついてやるから。
俺のために叫んでくれるなら喉が焼き切れても君に届くように叫び返すから。
だからいつか君を便りに取り戻してみせる。
「……………ご、…め……な?…………お…、…が……」
(ずっと、好きだったよ)
「………!」
鷹宮をぶっ飛ばしていると古市が倒れていたはずの背後から異様な空気を感じた。
まさか、と半狂乱のまま振り返る。だってそんなはずはない、古市は心臓を取り出されて死んだはずだろ。
息は確かめなかったがそんなの恐ろしくて出来なかった。
なのに、胸に穴を空けたまま古市はそこに立っていた。そんな馬鹿なことがあるか、と思うのに。
「………古市?なん、で」
「あー………なんかヘカドスとのティッシュの契約が切れてなかったお陰…………で一応生きてるみてぇ」
そういつものようにへらりと笑う古市。
の、胸ぐらを瞳孔を大きく開きながら男鹿は掴み上げた。
「てめぇ…………誰だ」
「……ほう、さすがだな男鹿辰巳。だがこんなことをしていいのか?これは古市の体だぞ」
「……!」
古市の体、そう言われた瞬間腕から力が抜けた。
古市、は何処だ?視界が揺れる、分からない。何も考えたくない古市が居ない怖い。
古市が居ない世界に意味なんてあるのか?ないだろ。じゃあ俺はこれから何の意味があって生きるんだ。
意味なんて何もないのに?生きるのか俺は。
「落ち着け男鹿!古市は消えてない!私と契約し、私の中で生きている。まだ望みはある」
「……………契約?」
「死ねないのだと言っていた。だから生きるために私と契約した」
「なん、で」
一種のパニック状態になっている男鹿にゆっくりと古市の声で話す。
「『約束』したから、と」
「…『約束』……」
俺は絶対に死なないと笑って言った古市が脳裏に蘇る。
死ぬ時は一緒だと言われたあの時、どれだけ嬉しかったか古市には分からなかっただろう。
その言葉にどれだけ救われたか。古市には貰ってばかりいた俺に今出来ることは何だ?
俺はどうすれば古市を取り戻せる。
「貴様のために契約した古市は言っていた。『俺の心臓(ココロ)はとっくに男鹿に渡してる。だからお前が俺を呼び戻せ。お前の声ならきっと届くから』と」
「……………そうか」
分かった、古市。
俺は絶対にお前を取り戻す。
悪魔にも誰にも渡さない。
「俺はどうすりゃいい」
「とにかく古市の心臓を取り戻せ。そうすればわざわざ契約して生きる意味もなくなる。まぁ、契約印は残るがな」
「んなもん後から俺が古市と契約すりゃいい話だ」
「…………しくじるなよ」
「てめぇこそ古市にそれ以上怪我させんなよ」
鷹宮をぶっ飛ばして、心臓取り戻して古市が帰ってきたら一発殴る。
そんで殴られて怒る古市を抱き締めて絶対一言伝えるまで離さねぇ。
俺はまだ伝えてねぇから。
この世で一番お前が好きだって。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私の中の男鹿と古市を詰め込んだ話です。
限りなく好き合ってる男鹿と古市だけど、付き合ってないおがふる。両片想い万歳。
今更207捏造とか・・・208見てないのでセーフだと言い張る。
208がこうだったらいいのに、という願望100%。
とにかく私の中のおがふるはこうなってます。
友達以上の気持ちにお互い自覚してるかどうか分かりませんけど(笑)
多分してるはず・・・・つか古市は男鹿を想いすぎだろう・・・
スポンサードリンク
コメントフォーム