夜中の電話。耳元で発せられた告白。
『古市、好きだ』
「…………はい?」
『また明日』
それだけ言われて電話を切られた。
言葉が出ない。
「……………じょ、冗談だよな?」
てかなんでいきなり?明日でも良かったんじゃね?
男鹿の切羽詰まった告白の言葉が耳にこだましている。
展開が急すぎて思考が追い付かない。
『好き』
それはきっと友達のソレじゃない。
そんなボケをかませるほど俺は神経が太くないし、何より相手に失礼だ。
……男鹿相手に失礼も何もないけど。
でもやっぱり信じられない自分がいて、友達としてのものだと認識してしまいたい。
だけど友達としての『好き』なんて、わざわざそんなこっ恥ずかしいことを男鹿がするはずがない。
答は一つ。
男鹿は恋愛の対象として俺を見ているのだ。
何が切っ掛けかは知らないけど、きっと相当勇気を出したんだと思う。
告白…………しかも同性相手に。一体どれだけ悩んで打ち明けてくれたのか。
「男鹿が俺に……告白」
今まで何度か告白されたことはあったし、付き合ったこともある。
なのに今まで告白された中で一番熱かった。熱の籠った声には甘いヴェールが掛かっていたようだった。
思い出すだけで顔が、胸が、熱く内側から火照り出す。
自動電源が落ち、画面が真っ暗になった携帯に自分の顔が映っている。
なんとも情けない顔をしている自分に恥ずかしくなる。
「へ、んじ………どーすりゃいんだ……」
告白されたからにはやはり返事をしなければならない。
そして男鹿には『また明日』と言われた。
つまり返事は明日返さなくてはいけないのではないかという疑問が浮上する。
別に男鹿は嫌いじゃない。恋愛対象としては…………うん、って感じだが、嫌いじゃない。
悪魔みたいなヤツだけど何気に優しいところがあるのも知ってるし、本当にたまになら格好良いと思うことだってないわけじゃない。
むしろ男鹿みたいな奴はつるんでて楽しいし(面倒事に巻き込まれるけど)、一生つるんでるような気さえする。
何せ小学校からの腐れ縁なのだから。まぁだからといってそれが恋愛に発展するかといわれたら微妙な心境だ。
「…………いや待て」
つかそもそも男鹿は『好き』って言っただけであって別に『付き合って下さい』とかそういうのはなかった、よな?
じゃあ俺は一体何の返事をすりゃあいんだ。返事はいらないってことなのか?
それに俺は明日男鹿にどんな顔で会えばいい。
『付き合う』を言わないのはこれからも友達でいよう、ということなのか。
「あ゛あぁああ!!もうわっかんねー!!」
頭をかき混ぜて叫ぶと下から静かにしなさい!!と怒鳴られた。
反省しながら古市は布団の中に潜りため息をつき、寝ようと目を閉じる。
ケータイを握りしめながら、親友に告白されたことに少しだけ気持ちがふわふわと不安定に揺れた。
朝、学校に登校しようと玄関を出たら居た。
「………………」
「よぅ」
あの、なんかごめん。
普通告白後ってさ…………相手に会いづらくない?つか同性相手にコクっといてなんでそんな普通なわけ。
まるで昨日のことなんか覚えてないみたいに。
結構こっちは学校でお前に会うの気まずいしどうしようって悩んだのが馬鹿みたいじゃん。
「あのさぁ…………昨日のことなんだけど」
「………電話のヤツか」
あ、覚えてた。
その話を出すなり、男鹿は微妙な顔をし、気まずそうに何故か目が細められる。
「あれ、言っとくけどウソじゃねーぞ。疑ったら滅り込ます」
「疑ってねーよ………」
古市は男鹿を疑ったりしない。というか男鹿がウソを言わないことを知っているから。
それに今の真剣な瞳を見れば本気なのだと嫌でも分かってしまう。
それなのに男鹿は“告白”しかしなかった。それ以上を何故求めないか、分からない。
求められたからといって自分が男鹿とそういう関係になるかはまた別問題だが。
「…………言うだけでいいのかよ」
「あ゛?」
「“好き”って言うだけで満足なわけねぇだろ、お前が」
それ以上を求めているのは知ってるんだ。
「俺は別にスッキリしてる。つーか、お前が女好きなの知ってて告白するってだけで緊張しまくってたんだっつの。それより上は要らねぇ」
古市が女好きだから。
それは十分な理由だ。同性の告白を受け取るというだけで奇跡に等しいのに、それ以上は間違いなく拒否される。
古市は同情なんかで付き合うような奴じゃない。
「男鹿、お前我慢なんかする玉じゃねーだろ」
早く言ってしまえよ。
「………古市は分かってねぇ」
俺の気持ちを。
「「俺は」」
二人の声が重なり、後ろをトラックが走った。
互いの声は聴こえなかった。
「なに」
古市が先に男鹿を促したため、男鹿が話し始めた。
「……俺はお前に嫌われたくねぇ」
「それで?」
生唾を飲み込み、古市にいつもからは想像出来ないほど切なく愛しげに視線を送る。
まさに恋い焦がれる男の瞳。喧嘩するときとはまた違う熱を帯びた黒。
「だから告白以上は言わねー」
「そんなん分かんねーじゃん」
「いや、お前女好きだし」
「そう、だけど………」
男鹿はこう見えても俺を大事にしてる。
俺が思っている以上に、俺を想ってくれている。
だからほんの少しだけ………1ミクロンくらいなら、男鹿をそういう意味で好きになれる気がするんだ。
「奇跡ぐらい、お前ならいくらでも起こせる。だから、言えよ」
「…………古市」
左手を両手で静かに掴まれ、男鹿が一歩進んだせいで二人の距離が近くなった。
男鹿の頬が少し赤い。やっと決心したのかと古市も妙な緊張の中で耳を研ぎ澄ませて言葉を待つ。
男鹿はゆっくりと口を開いた。
「俺と結婚してくれ」
「………………ぇえ?」
けっこん?あぁ血痕?
それはバイオレンス過ぎる関係だから俺には付いていけない気が………。
「結婚してくれっつってる」
「ごめん………ボケたら殴られそうだから一応真面目に返すけどさ………。お付き合いなしで結婚?つか法律的にムリが………」
「奇跡なんかいくらでも起こせるって言ったのお前だろ」
いやいやその前段階は必要だろ。あぁ……もう……本当バカだなぁ。
「言わせたのはお前なんだから責任取って嫁に来い。幸せにしてやるから安心しろ」
ダメだわ。1ミクロンのつもりだったのに今のですっごいクラッときた。
幸せにしてやる、なんてありきたりな言葉なのに男鹿が言うと心の奥にまで染みてくる。
「結婚………はムリかもしんないけど……」
法律的に。
「コイビトとしてなら………いい、か、も………です」
ヤバい、別に告白してるわけじゃないのに何か顔熱ぃ。
女の子に告白したときもこんなに熱かったっけ?
違う。男鹿だからだ。 男鹿以外にはこんなに心臓は熱くならない。
こんなに鼓動が速くなったりしない。
見ると、男鹿の顔もさっきより遥かに赤く染まっていた。
「コイ、ビト………ウソじゃねーよな」
「………ウソじゃない」
「………………」
男鹿は無言で俯いて顔を上げない。
体が小刻みに震えているように見えるが何か怒っているのか。
もしかしたら不味いことを言ってしまったかもと様子を伺った。
「男鹿………?」
「いや…………なんか、嬉しすぎて…………心臓が爆発しそう」
耳まで赤い。
「古市マジで心臓やべぇんだけど…………」
「俺だって………めちゃくちゃドキドキしてんだよ、バカ」
お前だけなわけねーから。
男鹿の気持ちが俺をじわじわと侵食してきてて、止まらない。
「なぁ、抱きしめても………いいか」
「……いいよ」
そっと回された腕と、男鹿の身体に身を預け心臓部を密着させれば互いの激しい鼓動が聴こえてくるようだ。
どうにも感じたことのない、熱くてもどかしい感情をどう処理すればいいのか分からない。
甘さが含まれた痺れが触れあった部位から全身に広がる感覚。涙が出そうになる。
男鹿と古市の後ろを二台目のトラックが走った。
それで思い出したのか、古市に尋ねた。
「そういや古市、さっきなんて言おうとしてたんだ?」
「え?」
「一回目、トラックに声消されたやつ」
「あ゛」
「教えろよ」
「絶対イヤだ」
古市は誤魔化すように男鹿の肩に顔を擦り寄せ、背中を強く抱き締めると、男鹿も甘えるように擦り寄ってくる。
すると…………玄関が開いた。
「貴之?まだ学校行ってなかったの?遅刻するわよー」
「あ!今から行く!!あははは!!」
「っつーー…………」
見事に男鹿の鳩尾を古市の拳がクリティカルヒットした。
あまり効かないにせよ、やはり多少は痛いようで飛ばされてくれた。
「あっぶねー……」
「古市てめぇ」
「早く学校行かねぇと遅れんぞ」
「あっ、待てコラッ!!」
走り出した古市を追いかけた。
二人と三台目のトラックがすれ違った。
““俺は””
“俺はお前とどんな関係になったとしてもずっと傍に居たい”
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青春っていいよね!
初心に帰って男鹿古の馴れ初め的なものを考えてみた。
男鹿ちゃんはいつもいきなりで急なやつだから告白も急だよね!
付き合うのもいいけどそれは簡単に別れられる⇒結婚は簡単に離婚できない!
そういう思考回路で結婚しようぜな男鹿ちゃん。
古市はこっからどんどんベタ惚れしていきますねw
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