分からない。何でアイツにキ………キスなんかしてしまったのか。
アイツの常に冷静で余裕そうな面を剥がしてやりたかった。
それだけだと胸を張って言えないから悩んでいる。
だいたいそんな子供染みた感情で接吻してしまうほど自分の唇は安くない。

ただ、シュレードから香る匂いと空気に溶けるくらい細い髪を直に感じてしまった。
至近距離で改めて見たヤツの顔は整いすぎていると言ってもいいほど綺麗な顔立ちをしていた。
細められた目、薄く開かれた唇。
それに惹き付けられたというのも認めたくはないがじじ………いや、俺は認めない。

なら俺は………

「俺は………一体……」
カイエンが無表情で悶々としていると、後ろから急に声をかけられた。

「カーイエン!!何してんだ?」
「ぅおっ!!ア、アンディっ、脅かすな!」
「なーに険しい顔してんだ?」
「お前には関係ない」

顔を覗きこんでくるアンディを振り払うように避ける。
眉間の皺がいつもの倍だな、と茶化されさらに眉間に皺が寄る。
そして特に深い考えもなく、なんとなくアンディにさっき自分が悩んでいたことについて聞いてみた。

「………例えば」
「…………お、おぉ」

「例えばとある男が誰かにキスしたとする。その理由はなんだ」
「え」

至極真剣に聞かれさっきとは違う態度にアンディは若干身を引くが、カイエンは胸ぐらを掴む勢いで距離を詰めた。

キ、キスって………どういう悩みでそんな顔してんだよ!
つか何!?それってつまり女の子とチューしちゃったってこと!?
うっわ羨ましいいいいぃぃ堅物キャラのくせしてやることやってんだよなぁ、カイエンは!

「いいなぁ……俺もチューしてー……」
「おっ、俺はしていない!勘違いするな!!」
「いや……さすがにそれは無理が………」
「無駄に囀ずるな。質問にだけ答えろ」

カイエンに胸ぐらを掴まれ、やはり図星かとアンディは一人納得する。
一体どこの可愛い女の子とチューしたんだ?と問い詰めてやりたいがこれ以上怒らせるわけにもいかないため、質問に答えることにした。
キスした理由……だったっけ?

「そりゃお前……キスしたかったからだろ」
「は?」
「キスしたかったからしたんじゃねーの」
カイエンはその答えに満足せず、また険しい顔をする。

「俺はその理由を聞いてる」
というと……キスしたくなった理由ってことか。そんなもん大体決まってんじゃねーか。



「好きだから、じゃね?」
「『好き』、だと……!?」


カイエンの体が石のように固まり、顔が硬直する。目は瞳孔が開いており、口は半開きでなんとなく間抜けだ。
彼のファンがこの状態を見たらなんと思うだろうか。 余程衝撃的だったのか指でつついても何の反応もない。

「…目の前に好きな子が居たら誰だってキスしたくなるもんだろ。後は綺麗!とか可愛い!とか思ったらしたくなもんよ」
「………………」


何だ?じゃあ俺は『好き』だからしたのか?俺が?シュレードを?あ……ありえん!
確かにあいつは綺麗な顔をしているとは思うが男同士だ。ありえない。あり得るわけがない。
友達としての『好き』すら怪しいのに、恋愛対象の『好き』なんてもっての他。

カイエンはアンディの肩をガシィッと強く掴んだ。

「あ、相手への嫌がらせでした場合も、か?」
「嫌がらせぇ?どんだけ体張った嫌がらせしてんのお前」

嫌がらせまではいかないにせよ、シュレードの取り乱す姿が見たくてした。
実際には少し目を見開いただけで、オーバーアクションをしたわけではない。
だがあの滅多に動じないシュレードからそんな顔を出させただけでも十分だ。

そんなシュレードの顔をみていたら自分のしたことの重大さに慌ててあそこを飛び出した。
もうシュレードの元へ行くことなど出来ない。けれど謝罪くらいはしておきたい。
噛み合わない思考に悶々とし始めていたカイエンにアンディは何を思ったかうんうん、と頷き始めた。

「まぁでもあれだな!その女子もお前が少なからず好きってことだな」

勝手に一人で納得し、いいなぁ………と感嘆の言葉を漏らすアンディにカイエンは首を傾げる。
意味をよく理解していないカイエンに軽やかに伝えた。

「だってそうだろ?普通は嫌だったら殴る!だから多かれ少なかれ気があるってことじゃねーか!うらやましーぃなぁ!」
「…………!」

気がある…………?シュレードが俺を好きだと言いたいのか。
確かに殴られなかった……だがあの距離を作ったのはシュレード本人だ。
自分から誘うように指を絡めてきたのもヤツ。それでキスして責められたらたまらない。
カイエンはある一点で思考が止まった。

「アイツが………」

アイツが俺を誘うように指を絡めてきたのは何故だ?

首に手を回してきたのは。

抱き締めてきたのは。



何故だ?



カイエンはシュレードの自分に対する態度を思い返せば、アンディの言葉も嘘ではないかもしれない、とアンディを見詰めた。
シュレードの行動の理由を考えたことなどカイエンは初めてだが、そんな理由が隠されていたことは知らなかった。

それが正しいかは分からないが人間は単純な生き物である。
一度そう認識してしまえばカイエンもシュレードがそうだと思い込むことになる。
まさかカイエンの相手がシュレードだと知らないアンディは、シュレードがカイエンを好きだという印象を強く与えてしまった。

「お、俺は………あいつを……」

どう思っている!?シュレードは悪魔で『友達』の範疇であって『恋愛対象』ではない。
だがシュレードにキスしてしまったのは紛れもなく自分なのだ。
シュレードに要らぬ期待をさせてしまったかもしれない、つまりその責任を果たすべきなのではないか?

カイエンの中でコトはどんどん大きくなっていく。
そんなことは知らないアンディ。さっきから一人百面相しているカイエンを心配しつつ面白いからまぁいっかと放置。

「ははっ!ま、頑張ってその女子ゲットしろよー」
カイエンを置いてその場を去るアンディに気付かず、廊下で一人ブツブツと呟きが響いた。

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カイエン視点です。何かもうキャラ崩壊だけど気にしたら負けです。
カイエンが何かただのお馬鹿ちゃんに・・・・・・・・。①の雰囲気とはかけ離れてます。ごめんなさい

次はシュレード視点かなあ
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