切羽詰まった凛に胸ぐらを掴まれて特に抵抗することもなく眺めている遙。
少し戸惑いの色が見える遙から目を背けるように俯いて、震えた声で告げた。
「もう、我慢出来ねぇんだよ………!」
「…………凛……」
泣いているのか、地面に滴が落ちて染みが出来る。
凛に触れようと腕を動かそうとすると、涙をぼろぼろ溢しながら顔を上げた凛と目が合う。
口を真一文字にきゅ、と結んで目元は泣いているせいか少し赤い。
そして口を開いたかと思うとまた目を反らし、小さく呟いた。
「………好きだ」
「…………?」
「ハルが、好きだ………好き、好きだ」
「り、ん」
「もう……耐えらんねぇんだよ。気持ち抑えて会うのも、お前が俺以外と話してるの見て嫉妬するのも………!……もう、ムリだ」
告げられた気持ちに遙から言葉が出ることはない。
突然の友人からの告白にどう反応すればいいのか分からないのだ。
明らかに反応に困っている遙を前に凛は顔をくしゃりと歪めて笑った。
「別にだからお前にどうかしてほしいとかじゃねぇから。ただ、知っといてもらいたかっただけだ」
涙を拭いながら、そう辛そうに言う凛の顔が遙の心臓に突き刺さる。
傷付けたくない、泣かせたくない、そんな顔で笑うな。ただそれだけが願いだった。
凛の頬に右手を添えて真っ直ぐ見つめると不安げに瞳が揺れた。
「凛は俺と付き合いたいのか」
「…そりゃ………欲を言えば、な」
「そうか………、凛」
「……なんだよ」
右手を添えたまま一歩分近付くと凛が反射で身を引こうとしたため、左手で腰を捕え逃がさない。
もう一歩顔を傾けて近付けば二人の唇は否応なしに重なった。
目を見開く凛に対し遙は綺麗に目蓋を閉じ、初めてのキスを数秒感じ入った後ゆっくり離れる。
「……ハル……?い、ま」
「キスした。嫌だったか?」
「嫌なわけなっ………!……なんでキスなんか……」
「確認」
「確認って何の……」
凛の前髪に手を伸ばして払うように掻き上げるといつもの無表情で言った。
「付き合うか」
「…………は?」
「俺が好きなら付き合えばいい」
「何、を」
「俺と付き合おう」
突然すぎる提案に頭が真っ白になる所か逆に冷静になる。
コイツは自分が何を言ってるか分かっているのか。いや絶対分かってない。
だってこんな、人が勇気だして告白したのにこんな簡単に……有り得ないだろ。
「意味分かって言ってんのか?」
「分かってる。だから付き合おう」
自分が一番好きな人にそう言われて断れる人はいるんだろうか。
きっとその人は下心とは無縁な聖人君子みたいな奴だ。
けど俺はそうじゃないから、伸ばされた腕を掴むしかなかった。
「……………浮気したら殺すからな」
「殺されるのは嫌だ」
俺達の、所謂お付き合いというのはそこから始まった。
あれから一ヶ月。凛は暇があれば岩鵄高校に来て遙にくっついている。
とは言っても凛自身部活があるため週一くらいのペースであるが。
皆が帰ったあと、更衣室の外で日陰に佇んでいた凛に遙が話し掛ける。
「凛?さっきからどうしたんだ?」
休日練習を見に来ていた凛はどこか不機嫌そうに遙達を眺めるだけで、いつものように嫌味を言わない。
競争しようとも言わずただ黙って遙を見てるだけだった。凛は立ち上がるとぶっきらぼうに答えた。
「……なんでもねーよ」
「嘘だ。お前の嘘はすぐ分かる」
澄んだ目でいとも簡単に嘘を暴いてしまう遙に小さく舌打ちをし、文句をぶつけた。
「……なんかお前アイツ等と距離近ぇ、から」
「…………?」
きょとん、と見つめてくる目に再度舌打ちをする。
言ってもどうせ理解されないことは分かってたし、相手はハルだし仕方ねーかもだけど。
でもやっぱりこんな醜い感情を一人で抱えるのも辛くて。こんな女々しい自分に酷く腹が立つ。
「…………それは嫉妬か?」
「………っ」
堂々と自分の認めたくない感情を確認してくる目の前の鈍感男を殴りたくなったが、何故か小さく頷いている自分がいた。
ハルを前にするといつも自分が自分らしくいられない。調子が狂わされる。
「凛」
「………んだよ」
「だからって俺は真琴達と関わらないとかそういうのは出来ない」
「……んなこと知ってる」
「ならいい」
「……………」
ハルは冷めてる。恋愛とかそういうのが頭の中にねーんだと思う。
だからハルが付き合ってもいいって言ったとき、俺のこと好きじゃないのくらい分かってた。
それでも俺はハルが好きだからそのチャンスを捨てることが出来なかったんだ。
「なぁハル」
「なんだ」
この一ヶ月、会いたくて会いに行ったのは全部俺からで。
手を繋ぐのもキスをするのも最初を除けば全部俺から。
しかもお前の目はいつもアイツ等に向けられてて。
形だけの恋人に虚しくならないわけがないだろ。
「俺達、別れるか」
「なん……」
「お前は俺のことが好きで付き合ってるわけじゃねぇだろ」
「……凛」
「いつも俺ばっか………だから別れる」
「俺を嫌いになったのか」
遙の問いに涙腺が弛むのを止めるように歯を食いしばる。
泣き出しそうな凛に無意識で手を伸ばそうとすると直ぐに払い除けられた。
遙の優しさが更に凛の涙腺を解いていく。
「お前を、嫌いになれたらどんだけ良かったか………」
「凛、泣くな」
「泣いてねぇ、よ………っ」
「……………」
俺は凛が泣いているとどうしようもなくなる。
泣かせたくない。ただそれだけだった。
気が付くと体は凛を抱き締めていた。
「!……ハル、離せ……っ」
「嫌だ。離さない」
「や、めっ………俺のこと好きじゃないくせにこんなことすんな!」
優しくされると余計惨めになる。
そんな凛の気持ちを余所に、遙は抱き締める腕の力を痛いほど強める。
胸を押し返しても、力では凛の方が上の筈なのに遙を引き剥がすことは出来なかった。
「俺は確かに凛をそういう意味で見たことはない」
「んなこと分かって………!」
改めて本人に言われるとかなりキツい。つかお前の神経どうなってんだ。
やべぇ………涙、止まんね……
「けど、」
「…………?」
体を一度離され、両肩を掴まれたかと思うと壁にゆっくりと押さえ付けられた。
真っ直ぐ見つめてくる目に視線を反らせなくなる。
「けど、凛の泣き顔だけは見たくない」
「…意味……分かんねぇ……」
「見てるとどうしていいか分からない」
理解不能な告白に戸惑っていると遙は凛の涙を手の平で拭い出した。
優しい感触にまた泣きそうになる。だけどそこで気付いた。
ハルは本当に底抜けにお人好しだってことに。それは酷く残酷で俺を更に惨めにした。
声が震える。
「俺が泣くから……お前は付き合おうって言ったのか」
「………そうだ」
「んだよ……それ………俺のこと馬鹿にしてんのか」
ただの同情。それは凛のプライドをただ傷つけた。
怒りなんてものは今更湧いてこずに虚しさだけが胸の中をくすぶり始める。
そんな凛を見て遙は続けた。
「馬鹿になんかしてない」
「嘘つけ……!」
「本当だ」
「ふざけんな!俺がどんな気持ちで…………っん」
突然塞がれた唇に否応なしに反論出来なくなる。
押し付けるだけの雑としか言えないキスなのに、凛を落ち着かせた。
口を離すと珍しく遙の目に熱が籠っていて心臓がドクンと脈打つ。
「凛が泣いてるのは見たくない。けど男と付き合う趣味もない」
「…………そりゃ、そうだろうよ」
「けど凛だから」
凛の肩を掴む手に力が籠る。遙から目が反らせない。
「凛だから、付き合っていいと思った」
意味が分からない。
なのに脈拍数が上がって胸が張り裂けそうなほど苦しくて好きで、涙がまた溢れた。
なんでお前はいつもそう俺を掻き乱すんだ。
「泣くな」
「お前が、泣かせてんだろ……っ」
「泣く暇があるなら俺を好きにさせてみろ」
最悪としか言えない、そんな台詞に文句も出てこない。
平然とそんなことを言ってのける遙を睨み付けた。
「上等だ、ハル。吠え面かかせてやるよ」
色気も何もない言葉に遙は満足そうに凛の頭を撫でる。
「凛はこっちの方がいい」
「………っ……っ」
ぶわわっと顔に集まった熱に、もしかしたら俺は一生コイツには勝てないかもしれない、と思った。
「…………」
俺は凛の泣き顔を見たくない。あの涙を見ていると変になる。
綺麗で……触りたくなる。
そして何より………
「凛が………可愛い……?」
あり得ない感想が胸を締め付けるから苦手だ。
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二人の馴れ初め。私の超個人的な理想の遙凛です。
無自覚なハルとそれに振り回される凛が大好きです。全部読んだ後→タイトルです。
凛は恋愛に関しては嫉妬しいと思う可愛い。
ブームに乗って萌えをぶつけてみましたが・・・やっぱりおがふる以外難しい。
最近はおがふるも難しいんですが(笑)
おがふるの場合書きすぎてネタがありきたりなのしか出てこないんですけども。
あとハルは総攻めだと思います。
4話衝撃の壁ドン事件は真面目にきゃあああああああwwwとか言ってましたww
受けっこからの壁ドンって破壊力やばいっすよね。
ハルがイケメンすぎて死ぬ。
推しメンは凛ですけどね!
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