*最終回のネタバレ有り
半年前、男鹿が魔界に行ってから何故か俺が石矢魔を治めていた。
最初は確かに男鹿の居場所を守るつもりで悪魔でも石矢魔No.2としてまとめていた。
悪魔の力を借りて小競り合いを沈め、実質上の石矢魔No.1を維持し続けた。
誰もその座に手が出せないように壁となって、男鹿を待つことが友達としてやることなんだと。
そのためには嫌々ながらも喧嘩したし、実際負けなかった。
石矢魔は拳がモノを言う学校であり、そうするしか術がなかったからだ。
けど、男鹿が居なくなって男鹿の代わりに喧嘩してる間に気付いた。
『男鹿辰巳』の相棒『古市貴之』はそんな奴だったか、と。
でも違ったんだ。
『男鹿辰巳』は力で周りを捩じ伏せることが出来る代わりに頭はからっきしだった。
しなくていい喧嘩をわざわざするような不器用な奴だ。
『古市貴之』は知将として頭が働き、戦術サポートが出来る代わりに腕はからっきしだった。
男鹿を唯一コントロール出来る人物と言っても過言ではない。
二人は互いの弱い部分を補うように出会った時から一緒にいた。
高校二年の間は『男鹿辰巳』が力を、『古市貴之』は頭脳を持って二人で石矢魔を統一していた。
今の自分は力で統べるだけで無駄な喧嘩をしていないだろうか。悪魔の力を振りかざしているだけではないのか。
そう思い至ってから、古市の石矢魔体勢は少しずつ変化していった。
無意味な仲間同士の争いは言葉で治め、力は外に向けるように。
元々古市自身人当たりが良く、人に信頼され尊敬されるようになるまで時間は掛からなかった。
男鹿がいなくなり半年、石矢魔生の誰しもが古市の言葉一つで動くようになっていた。
男鹿のためにと作った石矢魔体勢は今日の卒業式が過ぎれば無駄になってしまう。
返す宛のない荷物をどうするべきなのか、自分が卒業した後誰が継ぐのか。
男鹿は帰って来ない、そう鷹宮達に告げられて呆然とした。
なんで、どうして。
俺はお前の帰りをずっと待ってた。
お前に返して、やっぱNo.1はお前だなって笑って、お前も、当たり前だろって笑うんだ。
会いたい。男鹿に会いたい。なんで、お前はここにいないんだ。
やるせない気持ちが止めどなく零れていく。
どうして今お前は俺と一緒にいないんだと、この感情が何なのか分からない。
校長の挨拶も聞こえない耳に届いたのは大勢の石矢魔生の呼び掛けだった。
「古市さん!占めてください!」
「え………」
周りを見渡せば皆が古市を一心に見つめ、言葉をかける。
石矢魔の代表はアンタなんだと、二番目の自分でもいいのだと言われているようで。
それに答えないなんて男じゃない。そうだ、そもそも俺は男鹿の代理としてここにいる。
なら男鹿が帰ってくる最後の最後まで俺がここに立っていなきゃならない。
「卒業生代表としてお願いします!」
体育館に『卒業生答辞━━━━』とマイクの音が響いた。
あぁ、男鹿が例え帰ってこれなかったとしてもこんなに、こんな風に全校生徒に慕われて意味がないなんて言えない。
皆も俺と一緒に男鹿の帰りを待ってたんだから。
今まで男鹿に巻き込まれたせいで散々な目に合ってきたし、痛い思いもたくさんした。
でもそれも含めて全部俺の、俺達の大切な思い出だ。
俺はただ男鹿の隣で一緒に笑って居たかっただけだから。
ただ、それだけだから。
俺はこの石矢魔に来たことに後悔なんかしてない。
きっと俺は男鹿がいたから、
男鹿が一緒だったから、
石矢魔で過ごした時間が全部、
「クソみたいに楽しい日々でした」
きっと男鹿はこんな俺の気持ちも知らないで、魔界でフラフラしてるんだろう。
アホ面下げて悪魔ですら土下座させているかもしれない。
本当……勝手な奴……
「………?」
物音が近付いて来る。大きくて重圧感のある、この音は………?
体育館にいる全員が音がする方へ顔を上げたと同時に、凄まじい音が聞こえた。
しかし古市だけは何故か音が聞こえない所か、時すらも止まったように思えた。
一瞬呼吸が出来ない程に体が固まり、そして叫んだ。
「男鹿!!!!!!」
「よお」
「アダッ!」
マントを纏ったボロボロの姿にお前は一体何処まで行ってたんだとか、帰ってこれないんじゃなかったのか、とか聞きたいことが有りすぎて何から言えばいいか分からない。
魔界怪獣ゴルゴンゾーラをペットにするってお前滅茶苦茶だな。
つかもう一人の赤ん坊誰だよ。べる坊に関しては全く成長してねーし。
「べる坊だって一応成長したんだぞ」
「何処がだよ!」
「二言話せるようになった!」
そう言われべる坊に目を向けると爛々とした目で大口を開けて、声に出した。
「フルチン!」
「……………お、れ?なのか一応」
「おう!」
「アイ!」
自信有りげに声を張る二人に古市はため息を吐いた。
けど少し嬉しかった。男鹿が多分教えたであろう最初の言葉が「古市」。
いや、もしかしたら男鹿の言い過ぎで覚えてしまっただけかもしれないが、それでも自分がいない間に呼ばれていたという事実がどうしようもなく嬉しい。
古市がこの時どんな顔をしていたのかは分からない。
だがそれが見えていた男鹿は迷わず古市の手を取っていた。
「…………ヒルダ」
「なんだ?」
「ちょっと古市と二人で話があっから」
「え、ちょっ!おい!」
「…………分かった」
ゴルゴンゾーラの手綱を男鹿に渡し、アランドロンを下ろした。
古市は男鹿に手を引かれるままゴルゴンゾーラに乗り、宙に連れていかれる。
あまりの高さに言葉を失うが振り落とされないよう男鹿の服を掴む。
最初は怖くて下を見ることが出来なかったが、ゴルゴンゾーラの安定した飛行のおかげで落ち着いて目を開けてみると、まるで世界が開けたような気分になった。
「…………す、げ……っ」
「だろ?」
こんな風に住んでいる街を見下ろしたのは家族と飛行機に乗った以来かもしれない。
いや、その時は機体の中からしか見ることは出来なかったが、今は肌に風を直接感じて自分の住んでいる世界を見ている。
学校から自分達を見上げる皆に手を振り、振り返されれば愛しい気持ちが込み上げてきた。
片手だけ手綱を握り、隣に居る男鹿に凭れる。
「なぁ、男鹿。俺、ちゃんとお前のこと待ってたぞ」
「おう」
「皆も、待ってた」
「…………おう」
「で、お前はここに帰ってきた」
「そうだな」
「………良かった」
信じてなかったわけじゃない。
いや、特に約束をしていた訳じゃないから信じる信じないの問題でもないか。
それでも、多分帰ってこなかったら俺は一人で勝手に裏切られたような気になっていただろう。
石矢魔を男鹿の代わりに統べて、居場所を守るつもりで帰ってきたら男鹿に返すと、勝手に自分の中で決めていた。
けど本当は違った。男鹿のためなんかじゃない。
俺のためだった。
男鹿が帰ってくる場所はここなんだと示すように石矢魔の王の座を空けて。
ただ、俺が男鹿に帰ってきて欲しかっただけだ。
誰でもない、俺の隣に居て欲しかったからその座を誰にも汚されないように護ってきたんだ。
「俺の、こと……尊敬しろよ」
「ああ」
「ずっとお前の席空けてやってたんだからな」
「……………サンキュ」
まるで己が居なかった期間を労るように古市の頭をそっと撫でた男鹿に目尻が熱くなる。
今まで嫌なことがなかった訳じゃない。
けれど男鹿の代理で石矢魔の代表になったからには泣き言を言うのだけは嫌だった。
不安になることなんかしょっちゅうで、苦労も絶えなかった。
それでも、男鹿が帰ってきて一言「古市のくせに、よくやったな」と言ってくれればと考えるだけで疲れがなくなった。
実際には短いお礼だったが、触れた手の体温に今までの全てが吹き飛んだみたいに肩が軽い。
「なぁ、どうしよ………男鹿」
今こうやってお前と一緒にいられることがこんなにも嬉しい。
こんな感情今まで知らなかった。ずっと一緒に居すぎたせいで、分からなかった。
一緒に居るだけで俺はどうしてこんなにも嬉しい?分からない。
でも、
「………っ、おま……!」
男鹿は横に居る古市を見て一瞬固まり、柄にもなく動揺する。
古市の瞳は今にも溶けそうな薄い色素を揺らして、眉は情けなく垂れ下がり一心に男鹿を見つめていた。
甘く引き結ばれた唇は何かを訴えるように男鹿を向いている。
今にも泣き出しそうな顔に挙動不審な態度を取るが、少しすると古市に体ごと向き直った。
「あー…………その、なんだ……お前………や、ちげーな……」
「…………?」
「今は………俺達以外誰もいねー…………っつか………あ、……」
「…………男鹿?」
「だ、だからっ………ほら」
不審そうに男鹿を見る古市に向けて緩く腕を広げた。
「……誰も見てねーから……俺も、見ねーから…………我慢すんじゃねーよ」
気まずそうに顔を背け、さらに腕を広げる。その意図が分からない程古市はバカじゃない。
むしろその意味と男鹿の優しさに余計込み上げてきたモノを隠すように、手を伸ばして広い背中にしがみつくように腕を回した。
それと同時に耐えていたものが溢れ出て、止まらない。
「…っ……ふ、くっ……ぅ……!………ッ、ひっ……」
「…………鼻水はつけんなよー」
「う゛……っさ、い……!ふ、ぅ……っぅ、ぁ……!」
安心したように泣き出した古市を甘やかすように背中を擦り、時には頭を撫でて優しく扱う。
その行為の一つ一つ全てが男鹿が古市と出会って教えられたモノで、今はただひたすらに古市に返している。
おそらく男鹿のこの行為はこれからも古市にしか行使されない。
古市は怒るかもしれないが、照れくさそうに喜ぶことも確かだから、男鹿は古市を特別に扱うのだ。
そして男鹿も古市に特別に扱われることが好きだった。
「なぁ、古市はなんで俺のこと待ってたんだ?」
「……は……ッ………な、んでって?………っ…」
「………ここに帰ってくる前、もしお前が待ってなかったらって思ったらすげーやだったから」
「………ぅっ………んだよそれっ……っは、……っ」
だったら連絡の一つでもしろよ!そう言いたくなる気持ちを抑えて、考えた。
俺は俺のために石矢魔を護って男鹿を待っていた。それは男鹿にただ帰ってきて欲しかったからで。
そもそも会いたいと思う理由なんか決まってるだろ、そう頭の中に結論が出た瞬間、冷静になった。
あぁ、そうだったんだと。
会いたいと願い、自分の隣に居て欲しいと願う気持ちの答え。
それが胸の中にあまりにもしっくりくる言葉で落ちてきたものだから、思わず笑みが零れた。
「ふっ、ははっ!あー、マジかよ………くくっ」
「なーに笑ってんだよ。つかもう良いのか?」
「あー、うん。何か泣くどころじゃなくなっちまったからな」
涙が乾いた目元が赤くなっているのとは別に、白い頬も色づいていた。
一人楽しそうな古市に男鹿は仲間はずれにされたように思え、顔をしかめる。
そんな男鹿をあやすように柔らかい髪を撫で、笑って言った。
「俺、男鹿が好きみてーだわ」
そう告げた古市の顔は満足げで、男鹿は言葉が出ないまま呆然としていた。
自分が今何を言われたのか理解出来ていないのか、何故か険しい表情に変わる男鹿に古市はまた笑う。
きっと意味とか分かってないんだろうな。
でも、それでもこの気持ちに付ける名前はそれしかなくて、純粋な愛しい想いが届けばいいのにと。
「な、皆待ってたんだからさ。降りて何か挨拶してやれよ」
男鹿をあんまり独占するのも悪い。長い間待っていたのは自分だけじゃないから。
きっと男鹿の言葉を聞きたくて仕方ない筈だから。
二番の俺じゃなくて、本当の石矢魔最強の言葉を皆待ってる。
男鹿はまだ浮かない顔をしているが、手綱を握りゴルゴンゾーラに指示をする。
「………掴まってろよ」
そう言った男鹿が掴んだ場所の横をしっかりと握った。
そこまで猛スピードという訳ではないが、掴まっていなければ風圧で吹き飛ばされてしまいそうだ。
体を切る風が心地良くて、楽しくて、また笑った。
そんな古市の顔を見て男鹿は満足そうにつられて笑い、それと同時に古市が言った言葉の意味がストンと胸の中に落ちてきた気がした。
古市と居ると楽しい。
自分が満たされていくような、そんな充足感が溢れる。
もっと一緒に居たい。
それは飢餓にも似た想いで、 古市に会えない間モヤモヤしたものがずっと胸を燻っていた。
それは多分古市が言ったことが自分の中での事実で、この感情の名前がたった一つの真実だからだ。
体育館に空けた穴の横にゴルゴンゾーラが降り立ち、何度か羽根を羽ばたかせ羽根を仕舞った。
「よし、男鹿!しゃきっと挨拶しろよ!」
古市がガッツポーズを決めて先にゴルゴンゾーラの体から降り、地に足をつけるその瞬間、腕が後ろに引っ張られた。
掴まれた腕に振り向くと、ゴルゴンゾーラにまだ片足を掛けているような中途半端な姿勢の男鹿がいる。
古市より少し上の位置にある男鹿の顔を見ると、何処か切迫感のある目をしていた。
その鋭い目に体が固まる。胸がドク、と脈打つ音が聴こえた。
「さっきの!古市が言ってたのと同じかはっきり分かんねーけど、お前と一緒に居ねーと何か嫌だ。ずっと、傍にいろとか、思う、からよ」
だから、
「俺も、古市が好きみてーだと、思う」
告げられた言葉に涙が滲むより早く、体が動いていた。
掴まれた腕を掴み返し、思い切り引き寄せて男鹿の口に唇を押し付ける。
柔らかい感触と温かい体温を感じ、ゆっくり離れると情けない顔で幸せそうに笑う。
男鹿が俺を好き。
そんなの、言われる前からずっと、
「知ってるよ」
大好きが溢れるこの幸福を何と呼べばいいんだろう。どうしよう、また泣きそうだ。
嬉しそうに笑う古市の目にはすでに涙が浮かんでいて、男鹿は涙を掬うように口付けると古市同様情けない顔で笑った。
好きだ、と口に出せばその感情は自分の中でより色濃くなる。
どうして今まで分からなかったんだろう。
こんなにも会いたかったのに。
こんなにも欲していたのに。
こんなにも、好きなのに。
「なぁ、男鹿………まだ言ってなかったことがあんだけど」
不思議そうに首を傾げた男鹿に泣きそうな顔で精一杯の笑顔を送って。
「おかえり」
一瞬目を見開いた男鹿は直ぐに口元を弧にして古市の頭を大きな手でくしゃりと撫でる。
そして皆が待っているだろうステージに歩き出し、すれ違い様に古市の耳に口を寄せ、優しく呟いた。
「ただいま」
ステージに立った男鹿は盛大な拍手と歓声で迎えられ、古市が護ってきた場所に帰ってきた。
石矢魔最強の声を求める不良達に男鹿は、
「今の俺があるのは、『古市貴之』っつー俺の一番のダチに出逢ったおかげだ」
古市に出逢えたから、俺は強くなれた。
そうマイクに声を落とした。
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最終回に更におがふる的妄想(願望)を盛り込んだ話です。
内容が被っていたら怖いので、最終回に関連した作品はまだ読んでいません。
やっと完成したのでこれで読みにいけます!
今までたくさんの漫画を読み色んなCPで妄想してきましたが、おがふる程愛せたCPはなかったと思います。
本当に原作が終わることが悲しいです。
泣きそうになりながら書き殴ったものなので文章とかめちゃくちゃかもしれませんが、愛だけは詰めました。
私の高校三年間の集大成のつもりで書きましたがあんまり書きたいことは書けていないような気もします。
高一4月でおがふるにハマリ、おがふると同い年だと騒いでいましたが、
あっという間に高二になりおがふるの先輩か、とウキウキしていました。
そして卒業式を今週に控えた高三の今、おがふるも本誌で高三卒業式となり、また同い年になりました。
何故か一緒に過ごしてきたような気持ちになり、泣きました。本当におがふるが大好きです。辛いです。
でもおがふるが何か色んなものを超越しすぎていて、おがふるが未だに完全には理解できていません。
でもその理解出来ないほど奧が深いのがおがふるの良いところだとも思います。
もう一生理解できなくてもいいのでおがふるがもっと見たいです。
細かい本誌感想とかはまた落ち着いて書けたら書きたいです
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