古市が海に落ちた。


自転車二人乗りして、春先でまだ冷たいけどなんか海行こうぜってなって、割と高い位置にあった石に二人で登った。
いつもと特に変わんねーバカ話して楽しくて、ちょっと……いやちょっとではなかったかもしれない。
二人で暴れていたら俺が古市を少しどついた衝撃でバランスを崩した古市は海に真っ逆さま。

「古市っ!」

咄嗟に手を伸ばしたものの届かなかった。男鹿は直ぐ様海に飛び込み、古市を視界に捜すが見当たらない。
流れはそんなに早くないため遠くにいくことはない筈だ。
辺りを懸命に泳いで捜すと白いモノがゆらゆらと揺れているのが見えて急いで近寄る。

岩の出っ張りのようなものに引っ掛かっているそれは紛れもなく古市。
服が水草に絡んでとれなかったのかもしれない。古市はぐったりとしていて酸素が足りていない。

息が………出来ていない。

そう頭で認識するが早いか男鹿は古市を絡め取っている水草を引きちぎり、直ぐ様地上に連れていく。
頭の中でヤバイと叫ぶ。
地上が嫌に遠く感じたが水上に古市の顔を出させて呼び掛けるが目を醒まさない。


「古市!おいっ、古市!!」

岸に上げてからもずっと呼び掛けるが全く返事がない。
ヤバイ、ヤバイ。

「息、して、ねぇ」


起きろ。
頼むから、起きろ。


「古市、古市!古市!!」

分かんねぇ、どうすりゃいいのか分かんねぇ。
こういう時、どうすんのかくらい教えてから落ちやがれバカ古市。



「………そーいや……昨日」

姉が見ていたドラマで、恋人が海に落ちて人工呼吸とやらをしていた。
もしかしたら古市もそれで助かるかもしれない。

「待ってろ、古市」

確か、鼻を摘んで顎を傾けて気道とかなんかを確保して………息を吹き込む、だっけ。

男鹿はドラマでたまたま得た知識をフルに頭を回転させ思い出す。
後は息を吹き込むだけだ。

「古市………」

自身の息が漏れることのないように唇同士を隙間なく重ね合わせ、息を口移しした。
2、3度繰り返すと古市の身体反応が起き、男鹿は古市から身を起こして呼び掛ける。

「古市!」
「っ、げほっ!ゲホっ!カッ……はっ!うっ、は、……はっ…!」

水をその場に吐き出し、咳を繰り返すのに男鹿はほっと安心する。
息が大分落ち着いた頃には古市はすでに体力を消耗しきっていたため陽の当たる場所まで古市を抱えて移動した。
海に飛び込む前に脱ぎ捨てた学ランを取りに行き、古市のびしょ濡れのカッターと学ランとを脱がせ、上から男鹿の学ランを着させる。

「落ち着いたか?寒くねぇ?」
「大丈夫…………つか、マジでビビった」

「俺のがビビったっつの。怪我とかしてねーのか」
「多分………ぃっつ……!!テメッ!」

「足、やっぱくじてんじゃねーか」

打った箇所を上から押さえられ古市は涙目で睨む。
でも真剣に心配の表情を浮かべる男鹿に何も言葉が出てこなくなる。


「にしても………初めてやった割に上手く出来たってことか?」
「……………何が?」

「人工呼吸」

「へー………………」



え?人工呼吸?
誰が、誰に?


そんな古市の心を読み取ったのか男鹿はハッキリと言葉に返した。


「俺が、お前に」

「えっ……や、ちょ、マジ、で?」
「マジだからお前今生きてんだろ」

「………………っ」
「?」


古市が変だ。てっきり叫びながら叩いてくんのかと思ってたってのに。
口元を押さえて俺から顔反らして頬だけじゃなくて耳まで紅くしてる。
これじゃあまるで…………嫌がってねぇ、みたいな。


「古市?」

顔を覗きこむと今度は口だけでなく顔全体を覆い隠そうとする。
いつもかなり生意気だがこういう古市はけっこう好きかもしれん。
つーか………可愛い?よーな……………、塩水でとうとう目がやられちまった。


なんとなく目の前で小さく震えて声を噛み締める男を抱き締めてみた。

「……………冷えてんな」
「お前は……暖けぇ」

振りほどこうとはしない古市に男鹿はさっき人工呼吸した時のことを思い出していた。
重ねた時の唇が妙に頭に張り付いて離れない。


というより、もう一度、したい。

そう思った。



「な、古市」
「…………ん?」


「キス、したい」

「………………………は?」


何の冗談だと身体を反らして男鹿の顔を見るが冗談を言っているようには見えない。
それに男鹿はこの手の冗談を言うようなキャラじゃない。
なら、コイツは今本気でキスしたいと思ってるってことか?

な、なんつー恥ずかしいヤツ。

いや、男にキスしたいなんて言われて、普段の俺なら絶対に嫌がるのに今は不思議とそうは思わない。
きっと弱っているせいだ。男鹿に命を助けられたという恩を感じているせいだ。




「…………ぁ…」

いつの間にか後頭部に添えられた手に、三白眼の瞳を閉じてゆっくりと迫ってくる男鹿。

古市も釣られて瞼を閉じて唇に柔く触れた男鹿の唇を感じ取った。


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急に人工呼吸ネタが書きたくなったので。ムリヤリ展開ですが書いてて楽しかったですw
おがふるまだ付き合ってない設定です。
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