俺は『灰崎祥吾』という男が大嫌いで、多分この世でコイツ以上に嫌いになれる奴はいない。
自分勝手で頭悪くて性格最悪で俺とポジション同じな所が気に食わない。
気に食わないのに俺より強いのは事実で。だからアイツの全部が嫌いだ。
アイツが退部した時はザマァみろと頭の中で嘲笑った。
一々アイツの言動行動に苛々しないで済むのが嬉しくて、その日は気分よく仕事に打ち込めたし練習も楽しかった。
けど高校で試合相手にアイツを見た時、またドス黒い何かが腹の中に沸々と湧き上がるのを感じた。
試合では勝ち、己の優位を証明したがそれでも腹の虫は治まらない。
どうしようもないくらい自分の中に根差すこの男が大嫌いで仕方ない。
俺は『黄瀬涼太』という男が大嫌いで、多分この世でコイツ以上に嫌いになれる奴はいない。
人懐っこいように見せて腹の中は真っ黒で、自分の最大の武器を理解して使う、頭のイイ奴。
しかも俺と同じポジションなのが気に食わない。アイツの全部が俺の神経を逆撫でする。
俺が退部した後を埋めるようにキセキの世代に入ったアイツ。
それは俺から明確に奪い取った席じゃない、アイツに言ってやりたかったが止めた。
もうあの顔を見たくなかったからな。
けど高校で試合が当たった時、俺の才能はニセモノでアイツが本物だと証明された。
ハラワタが煮えくり返る思いだった。全てに恵まれるアイツが憎い。
アイツだけがどうしようもないくらい大嫌いで仕方ない。
俺は『黄瀬涼太』が大嫌い。
俺は『灰崎祥吾』が大嫌い。
((何より、根っこの部分が俺と似てるのが一番大嫌いだ))
そうして嫌い合ってきた今、どちらもそれぞれの職で働いている。
黄瀬はモデル業に専念し、灰崎は美容師を務めている。
そしておそらく今の彼らの関係は嘗ての二人を知る者なら有り得ないと口を零すだろう。
なぜなら今二人は半同棲に近い形で暮らしているからだ。
どうしてそうなったのかは正直今でも二人そろって分かっていない。
偶然の再会は二人に嫌悪の感情を思い出させるだけで、すぐさま喧嘩になった。
それなのに、二人は気付けばその日の内に抱き合っていた。そして何故か今でもそれは続いている。
「……はっ………う、ぁ………」
掠れた声を漏らしたのは中高時代強奪魔と悪名高かった灰崎だ。
その上から覆い被さるように重なるのは年を重ね、より見目麗しくなった黄瀬だった。
抱え込むように抱いているせいで灰崎の背中と黄瀬の腹はぴたりとくっついている。
「ショーゴ君中熱ぃ…………っは、」
「っ…………は、ぁ……ッ………く」
「………っ………やべ、出そうかも」
「テメッ………中には出すなよ!は、っん………!」
そんなん当たり前だろ、中出しなんか気持ち悪ぃ。
そう言った黄瀬に、セックスはするくせに今更何言ってやがると言ってやりたい気持ちを抑え、灰崎は馬鹿にするように笑った。
それの意味を汲み取ったのかは知らないが黄瀬の動きがより激しさを増す。
八つ当たりのようなソレに灰崎は堪らなく感じる。
「く、ぁっ………はっ!……あッ」
「喘がれると萎えるんだけど………はっ、止めてくんねっスか………っ」
「ああ?萎えるってドコがだクソが、ンぐッ」
「ウッセーよ、ショーゴ君は黙って良いようにされてな」
乱暴に抱く腕から逃れる術は知らない。
否、仮に知っていたとしても灰崎が黄瀬から逃げることはない。
大嫌いな相手が大嫌いな自分を抱いている、こんなに不可解で面白いことはないだろう。
触れ合う体温が気色悪い。漏れる熱い吐息も偶に零れる甘い声も全部鬱陶しい。
今この瞬間もコイツが憎くて仕方ない。
「っん……クッ………!…は、あっぁ」
「イキそう?」
「そ、れはっ、ん!お前だろ………っ死ね!」
「俺アンタのそーいう素直じゃねートコ、ほんと嫌いッス」
いや、ショーゴ君の言う言葉は全部本心だ。
ショーゴ君は俺が死ぬほど嫌いで、俺もショーゴ君が死ぬほど嫌い。
何でセックスしてるのかなんて知らない。
敢えて一つ理由があるとするなら相性がいいから、これに限る。
勿論体の相性だけど。
「は、あー………もっ、やべ………!ショーゴ君、イって……っは、」
「う、あ、ぁっ…………ん!グ、ぁッ」
「……ん………っ」
「リョ、……タッ………ぁ、っ」
例え嫌いであったとしても果てれば気持ちいいモノは気持ちいい。
その行為に愛し合うとかそんな意味なんかなくても体の相性さえ合えばこうやって体を繋げられる。
まぁ、出すもの出した後にも問題はあるが。
弛緩しきった灰崎の体の横で黄瀬は台所から持ってきた水を口に含んだ。
冷えた水は火照った身体を冷ますのにちょうどいい。
タオルで汗を拭くと灰崎にペットボトルを差し出したが、それが受け取られることはなかった。
「テメェの飲みさしなんか飲むかよ、気色悪ぃ」
「うっわ………マジうぜぇ」
「ハッ、ヤッたからっていい気になんなよバーカ」
誰がいついい気になったよコノヤロウ。
殴りたい気持ちを抑えて、黄瀬は舌打ちを一つすると俯せになっている灰崎の腰を軽く叩いた。
「い゛ッ………てめ、何すっ……」
「やっぱ何回ヤってもショーゴ君に情が湧くとかねーな」
「当たり前だろ」
睨み付ける灰崎に黄瀬はですよねーとケタケタ笑った。
ヤる時はいつもバックでしかしない。互いの顔を見ながらするなんてきっとこの先一生ない。
正面から抱き合ってキスして、そんな愛し合ってるみたいな関係は御免だ。
気持ち良ければそれだけでいい。勿論終わった後の気分は最悪だが。
「あーあ、やっぱ女抱かねーと調子出ねぇ」
「なーに言ってんスか。アンタ、それで女抱けんの?」
小馬鹿にしたような目で見下ろしてくる黄瀬にニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
意味深なその顔にゾク、と背筋を何かが駆けた。見透かされているようなその目に気持ち悪さが増す。
お前の方が女抱けんの?そう言われているみたいで、言葉が出なかった。
別に黄瀬が灰崎をどうこう思っているからではない。
ただ、確かに黄瀬は面倒くさくなく身体の相性も良い、縁を切ったとしても後腐れなく別れられる、そんな相手は灰崎しかいない。
大嫌いということだけを除けば行為は最高に気持ちが良い。
ソレを多分全部見透かされている。
「ま、俺はお前が何処で誰抱こうと知ったこっちゃねーけど」
「抱かねーよ」
言い切った黄瀬に灰崎は目を見開いた。まさかそう返してくるとは思っていなかった。
訝しげに見ていると黄瀬は灰崎の顔の横に手を付き、口角を上げた。
「大嫌いな相手とのセックスが一番気持ち良いとか燃えないッスか」
どうやら俺達はそこだけは気が合うらしい。そこに他意があるかなんて聞くまでもない。
俺達に特別な感情なんか必要ないから。
灰色の髪を揺らし、体を起こすと黄瀬に顔を近付け挑戦的に言った。
「何か気分ノったからもっかいヤんぞ」
「!」
少し驚いた。
いつもなら一度区切りがつけばそこで終わりの筈なのに一体どういう風の吹き回しだろうか。
黄瀬は瞬きを繰り返しながら顔の力を抜いて灰崎の頬にそっと指先で触れた。
明らかに眉間に皺が寄ったのが分かって笑みが零れる。
「顔、近ぇースよ?」
「別にお前顔だけは綺麗だから気になんねーよ。クソムカつくけどな」
そもそも顔が綺麗じゃなけりゃセックスなんかしない。しかも大嫌いな相手にだ。
間近で見るとやはり整った顔で殴りたくなる。
「そうじゃなくて、キス出来そうな距離だっつってんの」
「はあ?」
意味わかんねー、そう言う灰崎の気持ちは黄瀬自身よく分かる。いつもだったら死んでもしたくない。
キスは恋人同士の甘い行為であり、自分達とは程遠いものだからだ。
今まで灰崎と黄瀬は散々セックスしてきたがキスだけはしなかったし、する気にもなれなかった。
まずキスというものが頭になかったのだが。
けれど今黄瀬がそれを口に出したのは正しく気分がノったから、それに尽きる。
「なんか今ならショーゴ君相手でも出来そうな気がするんスよね」
「……………お前やっぱウゼェな………」
「ショーゴ君には負けるけどね。で、どうする?」
試しにしてみるかどうかはアンタに任せると、自分から言い出した割に丸投げな黄瀬に心底嫌そうな顔をするが、灰崎はいいぜと応えていた。
何となくの興味。体の相性がいいならキスも気持ち良いんじゃないかと、そう思っただけ。
それに今は気分もノってる。多分それがなければ死んでもしないし気持ち悪いだけだが。
閉じられた目蓋は金の睫毛のせいかやたらキラキラしていて、それだけでムカついたが灰崎も黙って目を閉じた。
ゆっくりと近付いてくる気配を感じながら口が触れ合うのを待つ。
「…………っ……」
「…………………」
少し触れただけの唇を離し、黄瀬も灰崎も口を押さえ互いに顔を背けた。
言うまでもないがそこに恥じらいの意味はない。
眉間に皺を寄せ、ただ分かるのは今自分が相当酷い顔をしているのだろうということだ。
「あー…………やべぇ、気持ち悪い……」
「テメェが言い出したんだろうが!………チッ、胸糞悪ぃ」
流石にこれはない。キスってこんなに気持ち悪いモンだっけ?誰かに問いたいくらいだ。
黄瀬は改めて灰崎の方を向くと苦々しそうに言った。
「俺、やっぱアンタのことどうあっても嫌いみたいっスわ」
「奇遇だな、俺もお前が世界で一番嫌いだ」
こんなキスをした後で気分よく寝れるわけもなく、黄瀬は灰崎を行為の名残が残っているベッドに押し倒した。
未だ感触の残る唇を拭いながら体に手を伸ばす。灰崎からの抵抗はない。
「さっさとヤんぞ」
「ん、そっスね。朝起きれなくなっちゃうし」
深夜をとっくに回っていることを教える時計に焦りを感じつつ、見ない振りを決め込んだ。
一度火がつけば止められない。黄瀬は遠慮なく覆い被さり、灰崎を貪るように行為に没頭した。
身体の相性はいいのに、と内心思いながら後ろから灰崎を抱き締めるように抱いた。
二度目が終わると同時に灰崎はベッドに伏せたまま動かなくなった。
疲れきった身体を見下ろし、黄瀬は俯せになり目を閉じている灰崎の身体を仰向けにひっくり返した。
灰色の髪がパサリとベッドに散る。灰崎の髪にそっと手を伸ばし、ゆっくり撫でた。
見た目より柔らかい髪を指先で遊びながら黄瀬は目を細めて見つめる。
「ショーゴ君、寝てるんスか?」
落ち着いた寝息を聞く限り、疲れて寝てしまったんだろう。
目元にかかった前髪を払ってやると黄瀬は灰崎の目を隠すように手を添え、口を噤んだ。
そして無防備な口にそっと己の唇を押し付けた。
「……ショーゴ君………」
触れた唇はやはり気持ち悪くて直ぐに離したが、気が付けば引き寄せられるようにもう一度唇を寄せていた。
気分は最悪。
黄瀬は口を離すと腰まで中途半端に掛かった毛布を灰崎の頭まで被せた。
「ショーゴ君、俺アンタのこと………ほんとに、大嫌い」
自嘲するような目でそう言った黄瀬は灰崎の頭を撫でるとそのままシャワー室へと消えていった。
独りベッドに横たわる灰崎は頭まで被せられた毛布のせいで真っ暗になった視界の中で呟いた。
「……………俺も、お前が大嫌いだっつの……」
黄瀬に触れられた唇は無駄に熱を持って嫌な感触だけを残した。
灰崎はそれを消すように口を拭うと静かに目を閉じた。
『大嫌い』
二人にとって
それが
恋だった。
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世界一お互いが嫌いな黄灰が合意でセフレしてる話でした。
ギス甘(ギスギスしてるけど甘い)。
私の中の黄灰イメージを書きました。あまり表現出来てないのが辛いです。
黄灰は中学時代があれで、大人になって再会して好きって言って恋人に素直になれるわけがないと個人的には思ってます。
正直、好きって言えずモダモダしてるのが最高に萌えます。
ただ、今回の話は嫌いって言いつつお互いのこと好きな黄灰ではなく、
大嫌いで仕方ないのが大前提で恋してしまっている黄灰です。
自覚しててもしてなくても萌えるのでそこまで考えてませんが(笑
)黄灰はツンデレとは違った素直じゃなさが可愛いCPだと思います。
黄瀬君の方が少し子供っぽくて灰崎君の方が少し大人っぽいと可愛いです。
あと個人的にはキセキ灰書いてみたいです。
本命は虹灰ですけど(笑)でも虹灰+青黄の受けコンビの話も書きたいです。
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