*モブ女&モブ男います
「真ちゃんってさ、恋とかすんの?」
それは部活後の自主練が終わって着替えの最中だった。
「………何故答えなければならないのだよ」
「興味本意だって!真ちゃん全然色恋とかに興味なさそーじゃん?」
「別に……全くしないというわけではない」
そう答えた彼に驚きながらもほんの少しだけ、期待した。
そういう自分を惑わすようなものに彼の関心があることは今の俺にとって、救いの手だったから。
「じゃーさ、今好きな人とかいんの?」
真ちゃんにそういう人が居るようには見えないし、どーせいないに決まってる。
『いない』って答えたら真ちゃんもまだまだだなって、笑い飛ばしてからかって。
俺とかどーよって薦めちゃったりとか。そんないつものやり取りをするつもりだったのに。
「…………居るぞ」
あぁ、聞かなければよかった。
もし真ちゃんに今、好きな人がいないなら、まだ俺にも可能性はあったかもしれない。
じっくりと時間をかけて落とすことも出来たかもしれないのに。
すでに好きな子がいる相手を落とすこと程難しいものはない。
…………そっか、いるんだ………好きなヒト。
「ははっ、真ちゃんもスミに置けねーよな!いつの間にそんな相手が居たんだか!」
いつもの調子で笑い飛ばさないと。
「お前は……………どうなのだよ」
「俺?」
「居るのか?」
「…………………」
いつもの調子で笑い飛ばさないといけない、のに。
いつもの俺ってどんなだったっけ。
どう返すのが俺らしいんだろ。
はは…………………分かんねーや。
「………………居るよ、好きな奴」
「…………そうか」
目の前に、居るよ。
心を見透かされないように目を合わさないまま互いに着替えを終えた。
緑間もその会話以降は高尾と特に会話することなく、部室から出ていった。
いつもは一緒に帰るのに今日に限って一人で帰る緑間に安心する。
この状態で一緒に居ても、いつもの様に話せる自信がない。
でも大丈夫、明日になったらいつも通りだ。
「…………帰るか」
あの会話から二週間が経った。
部活の時も教室で話すのも前と変わらずに仲の良い友達として接している。
真ちゃんは相変わらず変なラッキーアイテム持ってるし、ツンデレだしで。
俺も変わらない。いや、一つだけいつもと違うことがある。
「高尾君!おはよ!」
「おはよー、伊藤ちゃん」
彼女は俺のクラスメイト。
俺は顔が広いし色んな奴と友達だから、よく目当ての男子が俺の友達の場合は相談に乗せられる時がある。
色んな女子に相談されてきたが、今回の相談は正直あまり受けなくなかった。
「機嫌いーじゃん。何かあった?」
「うん!さっきね、勇気出して『おはよ』って声かけたら返してくれたの!」
「へー、やったな!次は教室で話しかけてみれば?」
「え!……でも、緑間君嫌じゃないかな?」
「だぁーいじょーぶだって!真ちゃん、あんなんだけど優しいし」
そうだ、今回の相談だけは受けたくなかった。彼女は『緑間真太郎』を好きになってしまったらしい。
一応クラスメートとして無下にすることも出来ず、こうして毎日何があったかを聞いてアドバイスをしてあげる。
俺と真ちゃんが仲良いのは皆知ってることだから、相談役には打ってつけだった。
ここ数日ほとんど彼女と行動を供にし、部活後も一緒に帰っている。
「でもさ伊藤ちゃん、あんま俺と一緒に居たら周りに勘違いされんじゃね?」
「えっ!……緑間君にもそう見えるのかな………」
「あー、真ちゃんはそーいうの疎いから大丈夫だと思うよ」
「ほんと!?じゃあいーよ!高尾君の話すごい参考になるし、話してて楽しいから」
「そっか……………」
俺は最低だ。
彼女の想い人に好きな人がいることを知っているくせに、それを伝えず応援している振り。
もちろん真ちゃんの好きな人は彼女じゃないし、勿論俺でもない、他の誰か。
そんな彼女と仲良くしてしまうのは、俺と同じように叶わない恋をしているという同情からなのかもしれない。
昼休み、真ちゃんと二人で昼飯を食べていると、サッカー部の中村が話しかけてきた。
「よぉ高尾、お前最近伊藤と一緒に居るんだってな!もしかして付き合ってんの?」
いつか絶対言われると思っていたが……、まさか真ちゃんと一緒の時とは……なんともタイミングが悪い。
真ちゃんが俺のことなんとも思ってないって分かってても、やっぱり好きな人にそういう誤解はされたくない。
高尾が中村に弁解を述べようとする前に、緑間はまだ半分ほどしか食べていない弁当を片付け、席を立つ。
「えっ、真ちゃん?もういーの?」
「……………食欲が失せた。図書室に行ってくる」
「あ、お、俺も行くから待てよ!」
「いい。一人で行く」
「…………?」
高尾を待つこともなく本当に一人で教室を出ていってしまった緑間を見送る。
いや、いつも仏頂面の彼がさらに機嫌が悪そうに眉間の皺を濃くしたため、追いかけづらかったのだ。
「なんだ?あいつ………」
「さぁ………おは朝の星座占いの順位が悪かったんじゃね?」
「なんだそりゃ!」
「真ちゃん、あの順位にかなり左右されっから」
「ふーん、変な奴」
「そこが真ちゃんの面白いトコなんじゃん?」
ただ、朝から機嫌があまりよくないとはいえ、さっきのはそれとは違うような気がした。
なんで?俺、何かしたか?
結局よく分からないまま残りの昼飯を胃の中に収め、中村の誤解を解いたついでに他の勘違いしてる連中にも伝えるように頼んでおいた。
昼休みが終わる頃には緑間は昼食前となんら変わらない様子に戻っていたため、特に気にすることもなく、放課後一緒に部活へ向かった。
部活最中、緑間はいつも通りメニューをこなし、いつも通りワガママを言い先輩を怒らせていた。
なのに、何処かいつもと雰囲気が違う。
「なぁ、俺なんかした?」
「お前が俺に何かした覚えがあるのか」
「えー?」
今日も朝練から今まで隙あらばからかって遊んだり、遊んだり、遊んだり……、心辺りが有りすぎる。
でもこれぐらいいつものことだ。今更こんなことで怒ったりしないはず……となると一体どれだ?
あー分からん。
「高尾、今日は残るのか」
「ん?あぁ、今日は残れるけど………」
「そうか」
最近は伊藤ちゃんに付き添って練習終わったら一緒に帰ってたから残んのとか久しぶりだわ。
けど真ちゃんは俺が居なくても欠かさず残ってシュート練してたんだろーなぁ。
ホント、うちのエース様は努力家だよ。
緑間に声を掛けようとするがもう横から消えていて、離れた場所からシュートを放つ姿が見える。
「はー………相変わらずスゲー美しいシュートだこと………」
てかアレ?何かちょっと機嫌良さげ?なんで?
「たーかーおっ!」
近くにいた宮地先輩に後ろから抱きつかれた。
「あ、先輩。ちょうど良いところに」
「あ?」
「今日の真ちゃん、機嫌の浮き沈み激しくないッスか?」
「あー?いつもとそんな変わんなくね?つかアイツの機嫌とか分かんのお前くらいだろ」
「……………そー、スか」
なんか、ちょっと…………優越感。真ちゃんの好きな人も分かんのかね……やっぱ。
……どんな子なんだろ。どんな性格してんだろ。繊細で物静かで成績優秀容姿端麗。
そんな大和撫子みたいな人かもしれない。
見惚れるほどのシュートを目の前にしても、高尾の内心は急激に冷めていく。
緑間を見れば胸が熱くなるのが止められない。
だが、自分を想ってくれない相手に、ましてや他に好きな人が居る相手を想うのは辛くて。
部活が終わった後、緑間と二人残って練習していたが高尾はいつもの調子が出ずに不調だった。
それに釣られてか、緑間も部活中のようなキレがない。
互いにこれ以上しても今日は意味がないと判断し、早めに切り上げた。
「ごめんな………今日調子出なくてさ」
「別に気にしてなどいないのだよ」
部室で互いに着替えながら、もしかしたら部室で二人きりになるのはあの時以来かもしれない、とふと思う。
あれからいつも通りにしてきたはずなのに、なんとなく距離が遠ざかったような気がして、もどかしい。
せめて友達としては近くに居たいのに。あんなこと聞くんじゃなかった。
「真ちゃん、俺明日は残れねーんだけど……」
いい?
最後まで聞く前に睨まれる。
「何故だ」
「……ちょっと用がある、から」
明日は一緒に伊藤ちゃんとマジバで相談にのる約束がある。
「……………伊藤、か」
「!、なんで……」
いつからお前はエスバーになったんだ、とか指摘するより前に緑間に捲し立てられた。
「そういうモノをするなとは言わない。だが色恋にうつつを抜かしてばかりいるお前に俺の相手が務まるとは思わん。そんなことをしている暇があったら練習しろ。壬事を尽くさないお前に勝利はないのだよ。そんなことをしているから練習に支障を…………」
「うるさい!!!」
「!」
ロッカーを拳で叩いた音が部室に響いた。
『そんなこと』?
俺の気持ちなんか何も知らねーくせに、知ったようなこと言うなよ。
俺にとっては誰にも、お前にも言ってない大切なソレをどうしてそんな風に言うんだ。
よりによってお前に『そんなこと』とか言われたら、俺はどうすりゃいいんだよ。
お前をうつつ抜かすくらい想ってちゃ悪ぃのか。
「お前だって………っ、お前だって練習に集中出来てなかっただろ!」
「俺をお前と一緒にするな!」
「一緒だろ!…………好きな人のこと考えて……動けなくなんのはお前だって、分かんだろ……?」
「…………!?」
ロッカーに拳を打ち付けたまま、顔を上げなかった高尾が緑間を見上げると、雫が床に落ちた。
緑間は目を見開き、高尾に釘付けになる。
あの何も考えていなさそうで、いつも本心では何を考えているか分からない高尾が、涙を溜めている。
本気なのだ、と悟れた。
「たか……」
「お前が本気で…………っ、他のこと考えらんなくなるくらい、その子のこと好きじゃないなら………!
…………………くれよ」
「………………?」
緑間のシャツを両手で掴んだまま額を胸板に押し付けて訴える。
「お前のその気持ち、俺にくれよ」
懇願に近いその言葉は涙に混じり、心に染みを広げる。
俺を好きになってくれたら絶対本気にさせてやるから。
だから、お前の心ごと俺に全部、くれよ。
震える手を離し、鞄を手に取る。
「……………ごめん」
「高尾」
「変なこと言った……………」
「……………高尾」
「もう暗いし帰ろーぜ」
「高尾っ!!」
「っっ!!!」
両手を取られそのまま壁に縫い付けられ、鞄が床に落ちる。
至近距離に迫られ、避けようとするが体格が有無を言い、体を押し返すことが出来ない。
そんな近くでそんな顔で、そんな眼で、見つめるな。
近付きたく、なるだろ?
足の爪先で背伸びし、壁に縫い付けられたままの両手はそのままに、首をゆっくりと伸ばす。
「………っ、!!」
触れ合った唇同士が体温を分かち合うよりも早く離れていく高尾に視線が奪われる。
そんな緑間の眼を見ることも出来なくて、俯いて呟いた。
消えそうな声で、小さく。
「…………………好きだよ」
「………………っ……」
誰よりも、好きだ。
「だから………近付くな」
お前が俺に近付く度、本当は少し期待してた。本当は誰にも譲りたくないって。
俺をお前が好きでいてくれたならどんなことも出来そうなくらい、好きだから。
だから、期待するような距離に入ってくるな。
お前が踏み込んだ分だけ、好きになるから。
「お前は馬鹿なのだよ」
「…………え?」
人の気も知らずに散々振り回しておきながら当のお前はそれに気づくこともない。
お前に彼女が出来たと耳に入り、俺がどれだけ動揺したか分からないだろう。
それでもお前が部活後、一緒に練習すると答えるだけで浮き足だつ。
そんな俺をお前は知らない。
見上げると両手は解放され、高尾を掴んでいた手は後頭部に回り、二人の唇がまた重ねられた。
「……っ……ん、……」
今度は皮膚を伝い、体温を分け合う程に長く重ねられる。
煩く鳴る心臓を他所にスローモーションのように離れた緑間は高尾が眼を逸らさないように、後頭部を支えたまま静かな部室で囁いた。
「…………好きだ」
高尾の目が大きく開かれる。
「………な、んで……?…ウソだろ……?」
「お前は俺がこんなことで嘘をつくと思うのか」
「…………思わねぇ、けど」
俺を好き………?じゃ、今まで俺は何に悩んでたんだよ。
俺ばっか勘違いしてショック受けて、他の子の応援して。馬鹿みてーじゃんか。
それなのに、お前に好きでいてもらえることがこんなにも………嬉しい。
単純だって笑われるかもしれない。けど、たったそれだけのことが俺にとっての一番なんだ。
「本当か………?本当に……」
「何度も言わせるな。分からないのなら、これで理解出来るだろう」
もう一度重ねられた繊細な唇が麻薬のように神経を支配した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
緑高初めて書きました・・・・・難しかったです。
一応馴れ初めというか・・・練習の割に無駄に長くなりました。
やっぱり私には緑高のハードルは高かった。
高尾って余裕そうで襲い受けとか誘い受けのイメージなんですが、
今回はあえて泣かせにいきました。
泣いちゃう高尾欲しいですmgmg
「真ちゃんってさ、恋とかすんの?」
それは部活後の自主練が終わって着替えの最中だった。
「………何故答えなければならないのだよ」
「興味本意だって!真ちゃん全然色恋とかに興味なさそーじゃん?」
「別に……全くしないというわけではない」
そう答えた彼に驚きながらもほんの少しだけ、期待した。
そういう自分を惑わすようなものに彼の関心があることは今の俺にとって、救いの手だったから。
「じゃーさ、今好きな人とかいんの?」
真ちゃんにそういう人が居るようには見えないし、どーせいないに決まってる。
『いない』って答えたら真ちゃんもまだまだだなって、笑い飛ばしてからかって。
俺とかどーよって薦めちゃったりとか。そんないつものやり取りをするつもりだったのに。
「…………居るぞ」
あぁ、聞かなければよかった。
もし真ちゃんに今、好きな人がいないなら、まだ俺にも可能性はあったかもしれない。
じっくりと時間をかけて落とすことも出来たかもしれないのに。
すでに好きな子がいる相手を落とすこと程難しいものはない。
…………そっか、いるんだ………好きなヒト。
「ははっ、真ちゃんもスミに置けねーよな!いつの間にそんな相手が居たんだか!」
いつもの調子で笑い飛ばさないと。
「お前は……………どうなのだよ」
「俺?」
「居るのか?」
「…………………」
いつもの調子で笑い飛ばさないといけない、のに。
いつもの俺ってどんなだったっけ。
どう返すのが俺らしいんだろ。
はは…………………分かんねーや。
「………………居るよ、好きな奴」
「…………そうか」
目の前に、居るよ。
心を見透かされないように目を合わさないまま互いに着替えを終えた。
緑間もその会話以降は高尾と特に会話することなく、部室から出ていった。
いつもは一緒に帰るのに今日に限って一人で帰る緑間に安心する。
この状態で一緒に居ても、いつもの様に話せる自信がない。
でも大丈夫、明日になったらいつも通りだ。
「…………帰るか」
あの会話から二週間が経った。
部活の時も教室で話すのも前と変わらずに仲の良い友達として接している。
真ちゃんは相変わらず変なラッキーアイテム持ってるし、ツンデレだしで。
俺も変わらない。いや、一つだけいつもと違うことがある。
「高尾君!おはよ!」
「おはよー、伊藤ちゃん」
彼女は俺のクラスメイト。
俺は顔が広いし色んな奴と友達だから、よく目当ての男子が俺の友達の場合は相談に乗せられる時がある。
色んな女子に相談されてきたが、今回の相談は正直あまり受けなくなかった。
「機嫌いーじゃん。何かあった?」
「うん!さっきね、勇気出して『おはよ』って声かけたら返してくれたの!」
「へー、やったな!次は教室で話しかけてみれば?」
「え!……でも、緑間君嫌じゃないかな?」
「だぁーいじょーぶだって!真ちゃん、あんなんだけど優しいし」
そうだ、今回の相談だけは受けたくなかった。彼女は『緑間真太郎』を好きになってしまったらしい。
一応クラスメートとして無下にすることも出来ず、こうして毎日何があったかを聞いてアドバイスをしてあげる。
俺と真ちゃんが仲良いのは皆知ってることだから、相談役には打ってつけだった。
ここ数日ほとんど彼女と行動を供にし、部活後も一緒に帰っている。
「でもさ伊藤ちゃん、あんま俺と一緒に居たら周りに勘違いされんじゃね?」
「えっ!……緑間君にもそう見えるのかな………」
「あー、真ちゃんはそーいうの疎いから大丈夫だと思うよ」
「ほんと!?じゃあいーよ!高尾君の話すごい参考になるし、話してて楽しいから」
「そっか……………」
俺は最低だ。
彼女の想い人に好きな人がいることを知っているくせに、それを伝えず応援している振り。
もちろん真ちゃんの好きな人は彼女じゃないし、勿論俺でもない、他の誰か。
そんな彼女と仲良くしてしまうのは、俺と同じように叶わない恋をしているという同情からなのかもしれない。
昼休み、真ちゃんと二人で昼飯を食べていると、サッカー部の中村が話しかけてきた。
「よぉ高尾、お前最近伊藤と一緒に居るんだってな!もしかして付き合ってんの?」
いつか絶対言われると思っていたが……、まさか真ちゃんと一緒の時とは……なんともタイミングが悪い。
真ちゃんが俺のことなんとも思ってないって分かってても、やっぱり好きな人にそういう誤解はされたくない。
高尾が中村に弁解を述べようとする前に、緑間はまだ半分ほどしか食べていない弁当を片付け、席を立つ。
「えっ、真ちゃん?もういーの?」
「……………食欲が失せた。図書室に行ってくる」
「あ、お、俺も行くから待てよ!」
「いい。一人で行く」
「…………?」
高尾を待つこともなく本当に一人で教室を出ていってしまった緑間を見送る。
いや、いつも仏頂面の彼がさらに機嫌が悪そうに眉間の皺を濃くしたため、追いかけづらかったのだ。
「なんだ?あいつ………」
「さぁ………おは朝の星座占いの順位が悪かったんじゃね?」
「なんだそりゃ!」
「真ちゃん、あの順位にかなり左右されっから」
「ふーん、変な奴」
「そこが真ちゃんの面白いトコなんじゃん?」
ただ、朝から機嫌があまりよくないとはいえ、さっきのはそれとは違うような気がした。
なんで?俺、何かしたか?
結局よく分からないまま残りの昼飯を胃の中に収め、中村の誤解を解いたついでに他の勘違いしてる連中にも伝えるように頼んでおいた。
昼休みが終わる頃には緑間は昼食前となんら変わらない様子に戻っていたため、特に気にすることもなく、放課後一緒に部活へ向かった。
部活最中、緑間はいつも通りメニューをこなし、いつも通りワガママを言い先輩を怒らせていた。
なのに、何処かいつもと雰囲気が違う。
「なぁ、俺なんかした?」
「お前が俺に何かした覚えがあるのか」
「えー?」
今日も朝練から今まで隙あらばからかって遊んだり、遊んだり、遊んだり……、心辺りが有りすぎる。
でもこれぐらいいつものことだ。今更こんなことで怒ったりしないはず……となると一体どれだ?
あー分からん。
「高尾、今日は残るのか」
「ん?あぁ、今日は残れるけど………」
「そうか」
最近は伊藤ちゃんに付き添って練習終わったら一緒に帰ってたから残んのとか久しぶりだわ。
けど真ちゃんは俺が居なくても欠かさず残ってシュート練してたんだろーなぁ。
ホント、うちのエース様は努力家だよ。
緑間に声を掛けようとするがもう横から消えていて、離れた場所からシュートを放つ姿が見える。
「はー………相変わらずスゲー美しいシュートだこと………」
てかアレ?何かちょっと機嫌良さげ?なんで?
「たーかーおっ!」
近くにいた宮地先輩に後ろから抱きつかれた。
「あ、先輩。ちょうど良いところに」
「あ?」
「今日の真ちゃん、機嫌の浮き沈み激しくないッスか?」
「あー?いつもとそんな変わんなくね?つかアイツの機嫌とか分かんのお前くらいだろ」
「……………そー、スか」
なんか、ちょっと…………優越感。真ちゃんの好きな人も分かんのかね……やっぱ。
……どんな子なんだろ。どんな性格してんだろ。繊細で物静かで成績優秀容姿端麗。
そんな大和撫子みたいな人かもしれない。
見惚れるほどのシュートを目の前にしても、高尾の内心は急激に冷めていく。
緑間を見れば胸が熱くなるのが止められない。
だが、自分を想ってくれない相手に、ましてや他に好きな人が居る相手を想うのは辛くて。
部活が終わった後、緑間と二人残って練習していたが高尾はいつもの調子が出ずに不調だった。
それに釣られてか、緑間も部活中のようなキレがない。
互いにこれ以上しても今日は意味がないと判断し、早めに切り上げた。
「ごめんな………今日調子出なくてさ」
「別に気にしてなどいないのだよ」
部室で互いに着替えながら、もしかしたら部室で二人きりになるのはあの時以来かもしれない、とふと思う。
あれからいつも通りにしてきたはずなのに、なんとなく距離が遠ざかったような気がして、もどかしい。
せめて友達としては近くに居たいのに。あんなこと聞くんじゃなかった。
「真ちゃん、俺明日は残れねーんだけど……」
いい?
最後まで聞く前に睨まれる。
「何故だ」
「……ちょっと用がある、から」
明日は一緒に伊藤ちゃんとマジバで相談にのる約束がある。
「……………伊藤、か」
「!、なんで……」
いつからお前はエスバーになったんだ、とか指摘するより前に緑間に捲し立てられた。
「そういうモノをするなとは言わない。だが色恋にうつつを抜かしてばかりいるお前に俺の相手が務まるとは思わん。そんなことをしている暇があったら練習しろ。壬事を尽くさないお前に勝利はないのだよ。そんなことをしているから練習に支障を…………」
「うるさい!!!」
「!」
ロッカーを拳で叩いた音が部室に響いた。
『そんなこと』?
俺の気持ちなんか何も知らねーくせに、知ったようなこと言うなよ。
俺にとっては誰にも、お前にも言ってない大切なソレをどうしてそんな風に言うんだ。
よりによってお前に『そんなこと』とか言われたら、俺はどうすりゃいいんだよ。
お前をうつつ抜かすくらい想ってちゃ悪ぃのか。
「お前だって………っ、お前だって練習に集中出来てなかっただろ!」
「俺をお前と一緒にするな!」
「一緒だろ!…………好きな人のこと考えて……動けなくなんのはお前だって、分かんだろ……?」
「…………!?」
ロッカーに拳を打ち付けたまま、顔を上げなかった高尾が緑間を見上げると、雫が床に落ちた。
緑間は目を見開き、高尾に釘付けになる。
あの何も考えていなさそうで、いつも本心では何を考えているか分からない高尾が、涙を溜めている。
本気なのだ、と悟れた。
「たか……」
「お前が本気で…………っ、他のこと考えらんなくなるくらい、その子のこと好きじゃないなら………!
…………………くれよ」
「………………?」
緑間のシャツを両手で掴んだまま額を胸板に押し付けて訴える。
「お前のその気持ち、俺にくれよ」
懇願に近いその言葉は涙に混じり、心に染みを広げる。
俺を好きになってくれたら絶対本気にさせてやるから。
だから、お前の心ごと俺に全部、くれよ。
震える手を離し、鞄を手に取る。
「……………ごめん」
「高尾」
「変なこと言った……………」
「……………高尾」
「もう暗いし帰ろーぜ」
「高尾っ!!」
「っっ!!!」
両手を取られそのまま壁に縫い付けられ、鞄が床に落ちる。
至近距離に迫られ、避けようとするが体格が有無を言い、体を押し返すことが出来ない。
そんな近くでそんな顔で、そんな眼で、見つめるな。
近付きたく、なるだろ?
足の爪先で背伸びし、壁に縫い付けられたままの両手はそのままに、首をゆっくりと伸ばす。
「………っ、!!」
触れ合った唇同士が体温を分かち合うよりも早く離れていく高尾に視線が奪われる。
そんな緑間の眼を見ることも出来なくて、俯いて呟いた。
消えそうな声で、小さく。
「…………………好きだよ」
「………………っ……」
誰よりも、好きだ。
「だから………近付くな」
お前が俺に近付く度、本当は少し期待してた。本当は誰にも譲りたくないって。
俺をお前が好きでいてくれたならどんなことも出来そうなくらい、好きだから。
だから、期待するような距離に入ってくるな。
お前が踏み込んだ分だけ、好きになるから。
「お前は馬鹿なのだよ」
「…………え?」
人の気も知らずに散々振り回しておきながら当のお前はそれに気づくこともない。
お前に彼女が出来たと耳に入り、俺がどれだけ動揺したか分からないだろう。
それでもお前が部活後、一緒に練習すると答えるだけで浮き足だつ。
そんな俺をお前は知らない。
見上げると両手は解放され、高尾を掴んでいた手は後頭部に回り、二人の唇がまた重ねられた。
「……っ……ん、……」
今度は皮膚を伝い、体温を分け合う程に長く重ねられる。
煩く鳴る心臓を他所にスローモーションのように離れた緑間は高尾が眼を逸らさないように、後頭部を支えたまま静かな部室で囁いた。
「…………好きだ」
高尾の目が大きく開かれる。
「………な、んで……?…ウソだろ……?」
「お前は俺がこんなことで嘘をつくと思うのか」
「…………思わねぇ、けど」
俺を好き………?じゃ、今まで俺は何に悩んでたんだよ。
俺ばっか勘違いしてショック受けて、他の子の応援して。馬鹿みてーじゃんか。
それなのに、お前に好きでいてもらえることがこんなにも………嬉しい。
単純だって笑われるかもしれない。けど、たったそれだけのことが俺にとっての一番なんだ。
「本当か………?本当に……」
「何度も言わせるな。分からないのなら、これで理解出来るだろう」
もう一度重ねられた繊細な唇が麻薬のように神経を支配した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
緑高初めて書きました・・・・・難しかったです。
一応馴れ初めというか・・・練習の割に無駄に長くなりました。
やっぱり私には緑高のハードルは高かった。
高尾って余裕そうで襲い受けとか誘い受けのイメージなんですが、
今回はあえて泣かせにいきました。
泣いちゃう高尾欲しいですmgmg
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